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デザインの視点
デザイン戦略
2020年9月29日

ビッグデータを補完するシックデータ:イノベーションの種を掴むエスノグラフィ

ビッグデータを補完するシックデータ:イノベーションの種を掴むエスノグラフィ

こんな方におすすめの記事です

  • 新規事業、新製品/サービスのアイデアをつくるための材料が欲しい
  • 既存のマーケティング手法に限界を感じている
  • より解像度高くユーザーターゲットを理解したい
  • 数字を重視する経営層に、エスノグラフィ(行動調査)の重要性を解説する資料が欲しい

 
 
デザイン経営で重視されるシックデータ
通常、プロジェクトの進行にあたって、数値に現れたデータ(定量データ)をもとに検証を行うことは、
経営にとって大変重要なポイントであることは周知の事実です。
昨今では、ビッグデータに代表されるように様々なデータを継続的に、オンラインで取得できるようになり、
またAIを活用したデータ処理の可能性も広がっていく中、これまで以上にその重要性が増してきています。

しかし、デザインによる企業価値向上を目指すデザイン経営においては、
定量データ以上に重視されているのが定性データ(シックデータ)です。
この記事ではなぜ定性データがデザイン経営に必要なのか、そして、
定性データの収集手法のうち、近年注目を浴びているエスノグラフィ(行動観察)についてを解説します。

定量データの限界
定量データに現れているのは、計測側の都合により計測されたデータであり、
生活者のほんの一部を切り取ったものですから、人々の“姿そのもの”ではありません。
例えば、以下はある魚屋さんのデータです。この定量データからどんなことがわかるでしょうか?

従業員:1名
店舗面積:約4㎡
取り扱い品目: 10種、約40点

店舗面積に注目された場合は、その狭さに気づかれると思います。
店主がいて、魚が並ぶと、さらにお客さんが店内に入ることは難しいでしょうから、
通路に面した対面販売のような小さな個人店舗であることまで想像できそうです。
加工をするスペースやバックヤードはなさそうですので、どこかから持ってきて売るための場所のようです。

こちらが実際のシーンです。
 
ビッグデータを補完するシックデータ:イノベーションの種を掴むエスノグラフィ
 
これはインドネシアでの個人経営の小さな魚市場で、店主の女性がお客さんに話しかけているシーンです。
床に近い低い台を使っていること、女性がしゃがんで作業していること、冷蔵庫や氷の無いことまで
最初のデータだけで分かった人は少ないのではないでしょうか?
さらには、この小さな店舗のイノベーションを実現する際に、より必要になってくるのは、
この女性が今、どんなことを考えているのかーー
何を変化させたくてどんなことを頑張りたいと思っているのか、
あるいは何を変えたくないのか、に至るまで、より注意深く、行動を観察したり、本人に話を聞いたり、
さらには文化的背景までをも読み解くことであるとトリニティは考えています。
 
もちろん、定量データにより検証できることも多く、重要となる局面があるのは周知のとおりです。
サンプルはごく一部の定量データと写真での比較でしたが、
実際には世帯人数や買い物の履歴、昨今では歩数や移動の状況などまで、さまざまなデータが入手可能になり、
これまで以上に人々の生活の様子を想像しやすくなってきました。
しかしその行動の背景や、計測されていない部分に大きなビジネスのヒントが潜んでいる場合があります。
定量データを読み解く際には、「取得できていない情報がある」、「思いもよらない動機がありうる」ということを念頭に置き、
生き生きとした人々の姿を多面的に把握するように努めなければ、実際の人々の姿とは乖離してしまうことがあります。
 


定量データを補完するシックデータ(Thick data)
計測可能なデータの集合であるビッグデータに対し、
人の感情や社会的コンテクスト、文化といった質的情報は、シックデータ(厚いデータ)と呼ばれています。

ビッグデータは幅広く情報を収集し、シックデータは限られた範囲で厚い情報を収集します。
ビッグデータが、“計測者によってあらかじめ決められた項目”を点で計測・取得するのに対し、
シックデータは“計測者が予想していない情報”を取得することが目的です。
例えばビッグデータでは、買い物の頻度や金額を計測することができ、
シックデータでは、買い物に行くきっかけは何か、買い物の途中でどんなことを考えているのか、
買おうとしてやめたのはなぜか、など
関連した行動や意識、価値観や文化的背景を深く掘り下げます。

どちらにも一長一短がありますが、双方の特性を理解したうえで、互いに補完することで、
片方からだけでは読み取れない状況が見えるようになります。
 
 

ビッグデータを補完するシックデータ:イノベーションの種を掴むエスノグラフィ
図:Tricia Wang氏の図をもとにTrinityが作成

この、シックデーターーー人の生活や視点、文化、感情など―――を
情報収集する方法として活用されているものにエスノグラフィ(行動観察)があります。
 


エスノグラフィ(行動観察)とは?
エスノグラフィとは、観察を通じ、質的なデータを収集して人を理解するための
文化人類学や社会学、心理学で使われる研究手法の1つです。
普段の生活の中で人々がどのように行動しているかを観察し、
質問を重ねることでその行動の裏にある価値観や動機、言葉には現れない欲求やニーズまでを把握します。

エスノグラフィが効果を発揮する場面
エスノグラフィで収集する情報は様々なものがありますが、
ビジネスの現場では以下のようなシーンで活用されています。

  • 生活者インサイトを把握したい
  •  生活者が実際にどのような行動・暮らしをしているかを知りたい
  •  生活者の嗜好の変化を捉えたい
    など

エスノグラフィを実施する方法
実際にエスノグラフィを実施する場合は大きく4つの手順にわかれます。

1.仮説設計のためのプレリサーチ
長期間の観察が許容できる学術的なエスノグラフィとは異なり、ビジネス現場での行動観察調査では限られた期間とバジェットで有効なインサイトまで辿りつく必要があります。
学術的なエスノグラフィが、幅広く、対象者の生活に観察者が入り込み、長期間密着してデータを収集するのに対し、
ビジネス場面でのエスノグラフィでは、観察場面の定義や、フィールドや対象者の選定を事前に行い、
ある程度の絞り込みを行います。
また、デスクリサーチや文献調査を行い、できる限り事前に情報を収集します。事前調査を行うことは、観察の際に得られる気づきを増やすことにも通じます。

2.フィールドの選定
検証したい仮説について、適切であると思われる場所や人物を探し、日程調整の上、協力を依頼します。
個人情報保護や、秘匿義務、謝金についての契約を行います。

3.フィールドへの参加(観察と記録)
実際の観察の際は、対象者がなるべく普段の行動をしてもらえるようにする必要があります。
そのため、大人数で見学をしたりすることはおすすめしません。
対象者本人も気が付いていないふるまいや、モノの配置などに重要な意味があることがあるので、
言葉だけに頼らないで情報収集を行います。
音声や動画記録、写真(キャプチャ)記録を行います。また、気が付いたことや違和感のメモを取ります。
※現在はコロナの影響により、オンラインでの実施が増えています。
LINEなど対象者が使いやすいツールを用いて観察することが可能です。

4.データの読み解きと洞察
観察で得られたデータをもとに、さらに深く読み解きを行います。
海外や専門領域など、文化的背景の異なるシーンでは、有識者の意見を聞くことなども有効です。
 


まとめ
ビッグデータなど、定量的なデータにはメリットがありますが、
さらにエスノグラフィなどの手法を用い、定量化されていない情報を読み解くことで、
思いもよらない新たな発見が得られる可能性があります。
デザイン経営やデザイン思考の実践にあたり、定性調査は重要な位置づけになります。

現在、新型コロナの影響のある中でも、オンライン技術の発達により
訪問せずに定性調査が可能になっています。
トリニティでは、ZOOM、LINEなどの遠隔対話ツールや、動画記録を用いてオンライン海外調査を行っています。
(実際の現地訪問に比べてのメリットやデメリットについての解説は、「デザインリサーチ 資料:今まさに大きく変わる価値観を グローバルに読み解き、 社会のリ・デザインへ(別ウインドウでDLページが開きます)」で解説していますので、ぜひご参考になさってください。)

世界中で価値観や暮らしが大きく代わり、その変化が定着の段階に移行してきています。
この先の課題をみつめ、新たな製品・サービスを創ろうとする際に、
エスノグラフィは示唆に富む情報を得られる手法の一つです。
ぜひトライしてみてください。

T/——————————————————-
文責:中森志穂
トリニティ株式会社 デザインリサーチャー

筑波大学大学院 人間総合科学感性認知脳科学専攻 博士課程 単位取得満期退学(2011年)。
筑波大学在学中に日本学術振興会特別研究員として採用され、感性工学をデザインの側面から研究。
その後グローバル電子機器メーカーにて技術プロモーション全般を担当しつつ、
任意団体にてオープンイノベーションによる新規事業、ソーシャルデザインに関わる。
デザイナーとしても活動し、キッズデザイン賞ほか受賞。
現職では、デザインリサーチ、企画設計およびプロモーション全般を担当。


トリニティの海外エスノグラフィ
トリニティは世界15か国に調査拠点を持ち、メーカーの新規商品開発パートナーとして過去20年調査業務を実施。特に新興国でエスノグラフィを用いた調査をひろく行っています。
「行動観察で得られた情報と他エビデンスの情報を掛合わせて生活者インサイトを洞察する」、「我々日本人には分からない現地の文化的な背景を重ねながら読み解きを行う」など、トリニティのエスノグラフィでは、現地デザインリサーチャーの豊富な知見を活かして共同で結果を読み解き、また私達が把握するグローバルな価値観動向と照らし合わせながらレポーティングを行っています。

・エスノグラフィに興味がある、
・自分たちの課題にエスノグラフィを取り入れてみたいが、適切かどうかわからない など
お悩みのことがございましたらどうぞお声がけください。

デザインリサーチ 資料ダウンロード
エスノグラフィ以外にも、デザイン経営に役立つデザインリサーチの手法をまとめています。
資料DLフォームからどうぞご活用ください。

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