トリニティ株式会社

B2Bに必要なデザインリテラシーとは?

公開:2019年12月12日 更新:2019年12月12日

なぜB2B企業ではデザインが普及しないか

B2B領域の企業は真面目で固く、「品質力」「技術力」「営業力」思考が強くなりがちで、コンシュマー向け製品を扱う企業ではないので、「うちにはデザインなど関係ない」という意識が大きいのではないでしょうか。こつこつ真面目に製品について語れば、わかる人にはわかってもらえるという自負もあるのかもしれません。しかしB2Bの分野でも、スペックや機能の差だけで競合を圧倒することは極めて難しくなってきています。数字で置き換えられない感覚的な定性的な認識の積み上げが、大きな差別化に結びついている例が多く出てきています。私自身の体験も踏まえお話をできればと思います。

デザイナー顔負け。トップ営業マンの販促資料

私が以前勤めていた会社が扱っていた商品は、関係者以外は触れることもなければ、見ても何に使うのか認識できないくらいニッチな分野の製品でした。一台数百万、何十キロもするデモ機を背負って、日本の半分を飛び回り営業をしました。でも、機械のスペックや操作方法など覚えていることを説明するので精いっぱいで、なかなか最初はうまくいかない。そんな時社内で営業力がある先輩にアドバイスを仰ぎました。そのアドバイスの中で見せてもらった彼の営業資料を見て、とてもショックを受けたことを覚えています。会社としてのコアバリューとは何か、このことを自分なりに消化した上で、それぞれの想定されるユーザーのニーズをキーワードとして書き出し図式化していたのでした。この図を元に、売り込むお客に合わせて営業のアプローチを変更することで、成果をあげていたのでした。更に先輩の営業資料はフォントや素材など細部まで配慮がされ、売り込む製品が変わり、ターゲットユーザーが変わったとしても、企業のコアはぶれず、説明を受ける方も、企業とアウトプットとしての製品までが繋がっている印象を受けたのでした。

・会社として提供すべきコアバリューは何か?
・社外の人にも伝わる形でコアバリューを体現することができているか?(メッセージやロゴ等のビジュアルイメージ)
・営業資料はメッセージやイメージに沿っているか(コアバリューに沿っているか)?
・会社を代表する営業マンとして振る舞いはコアバリューを体現できているか?
・フォントや素材は統一されているか?

今考えると、先輩が実践していた内容はこういったことでした。デザイナーからすれば、コンセプトを元に素材を準備しビジュアル化し、細部のフォントの統一を行うなど、当たり前の話かもしれません。しかしなかなか現場で戦う人達全てがこういった配慮をすることができるわけではなく、細かい調整をしているうちにぶれてしまっていることも多々あります。上流の考えや価値など、形にしづらい抽象的な概念を、咀嚼してビジュアル化できる第三者の存在というのは企業として大きな価値であり、デザイナーが武器として会社内で発信できるもののひとつです。

引用元 Yamato Muraoka note

https://note.com/yamato_muraoka/n/nae0fa764484c

またビジュアル化する以外にもコピー、ライティングなど言葉など、人の感覚に訴える多彩なコミュニケーション方法を駆使することができる、というのもデザイナーの強みなのかもしれません。理想は、ユーザーが目にする可能性のあるもの全てのモノが、同じ水準の基にデザインされ統一されていることです。

コーポレートブランドの重要性 海外事例

とはいえ、まだまだ自分たちは関係ないとお思いの方も多いかもしれません。例えばスイスの多国籍企業、ABBは2017年ロンドン、ヒースロー空港であるキャンペーンを行いました。空港で旅行客が一番懸念する問題の一つ、スマートフォンデバイスのチャージポイントを自社の広告と共に設置したのです。ABBは主に送電、配電や発電所に関する製品・サービスの提供や、工業分野向けにロボットを含めた自動化システムに関する各種製品・システムを販売する企業です。決して一般ユーザーが日々頻繁に目にする製品を扱う企業ではありません。しかしエネルギー・テクノロジーを扱うキープレイヤーの使命として、多くの人が抱えている問題に対して解決案を提示すると共に、自社のコアバリューと企業としての使命をメッセージとして送ることに成功しました。こういった一般のユーザーに露出する形の広告をABBが定期的に継続して出していることからも、一定の効果が上がっている証拠でしょう。

*2017年にABBがロンドンヒースロー空港で行ったキャンペーン。
エネルギー・テクノロジー産業企業として、存在感をアピールすることが狙い。
https://www.jcdecaux.co.uk/news/abbs-powerful-sponsorship-campaign-heathrow

またドイツのB2B大手産業機器メーカーSIEMENSは、カンファレンスのプレゼンテーションに登壇する際、選考基準においてCI/VIの整備が必須条件となっています。プレゼン資料やホワイトペーパーなど、その様式、色使い、キーワードなどについてもデザイン部が強く介入し、基準を満たさない資料でのプレゼンテーションは行えません。経営層に近い位置にデザイン部が存在することも特徴で、経営方針が決定すればすぐに具体的なイメージやガイドラインを作成し、全社に遵守させまう。SIEMENSというグローバルレベルで存在感を持つB2B企業がこれだけデザインを重視している、という事実も無視できないものではないでしょうか。

さいごに

なんとなく品質がよさそう、サービスがいい、イケてる会社、こういった感覚的な部分も、決して偶然に出来上がったものではなく、日々の企業努力から生まれているものです。全ての原点となる企業の価値がデザインにより具現化されていて、それが各メンバーに落ちていて、事業全体が発信する全てのアウトプットが上記考えのもとに統一されている。B2Bにおいてもこのような感覚はユーザーにとって大きな影響を与える比較材料となるのではないでしょうか。

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文責

文責:米山良明
トリニティ株式会社 デザインリサーチャー

精密機器メーカーで海外営業・マーケティングに従事した後Design、 Academy Eindhoven(オランダ)でプロダクトデザイン・情報デザインを専攻。帰国後は国内のプロダクト・インテリアのデザイン事務所でデザイナーとして勤務。2017年よりトリニティで現職。ジャンル問わず、デザインリサーチャーとして最先端のデザイン、技術等のトレンド情報を収集、分析している。