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サステナビリティ=持続可能性とは(デザインにおける「サステナビリティ」の考察 1/4)

公開:2022年06月15日 更新:2022年06月15日

はじめに:価値観の変化をとらえるデザイン

デザインコンサルタントの篠崎です。
日頃、特定企業の事業開発、商品開発のための定性的なリサーチ&分析を主に担っています。
定性といってもいろいろあるのですが、特に人々のものの考え方やそれに基づくライフスタイル、そして求めるものが何か把握するため、事実を蒐集し、そこから未来への洞察を加えてレポートしています。
この洞察を様々な視点で行うことは、「いま、存在しないものやサービス」を創るにあたってとても大切なことだと考えています。
この記事では、「サスティナビリティ」についてのひとつの考察をご紹介します。

サステナビリティ領域でのデザインコンサルティング事例

 

  • 「ウェルビーイング考察のための基礎情報レポート」(総合ITベンダー)
  • 「欧州におけるエコ関連基準/規制実態調査」(グローバル家電メーカー)
  • 「エコデザイン事例調査」(グローバル家電メーカー)
  • 「レジリエンス思考の構造化とアイディア発想手法開発」(グローバル家電メーカー)
  • 「エコ素材のコンセプトモデル開発および海外展示会出展サポート」(素材メーカー)
  • 「スマートシティコンセプト提案」(自動車メーカー)ほか

エコからサステナビリティへ

2000年代初頭にミラノ工科大学に留学した時に受講したデザイン戦略マスターコースで「サステナビリティ」の授業がありました。担当教授は、サステナビリティの必要性に対する自身の想いもあり熱弁を振るわれていましたが、他のイタリア人学生たちはその教授の講義を退屈に思っているようでした。わたしは、授業に付いていくのに必死で、配布資料の内容を辞書で単語を調べながら理解しようと努めました。サステナビリティ(イタリア語ではsostenibilità)を辞書で調べると「持続可能性」と書かれていましたが、当時はその言葉の意味が分かりませんでした。そのような言葉を聞いたことすらなかったのです。

 

それから帰国後に今の仕事で、「エコデザイン」のリサーチをする機会に恵まれ、環境意識の急速な高まりを実感しましたが、サステナビリティという言葉が聞かれるようになったのは、それからずいぶん後のことでした。確か2010年以降のことだと記憶しています。地球環境に配慮した取り組みを表す言葉がエコからサステナビリティに置き換えられるようになりました。それと同時に、一時的ではなく「持続可能」でなければいけないという視点が加わり、製品開発においても最近では、環境負荷の低い素材を採用するなどの設計や製造の段階に留まらず、遡って原料調達から製造後の流通、使用、さらには廃棄後に至るまで、製品の全ての「ライフサイクル」を包括した取り組みがされるようになりました。店舗などのサービス空間では、店舗開発だけではなく運営における持続可能性も追求され、再生エネルギーの使用も進められています。

再生素材の活用などの環境負荷の低い店舗開発に加え、再エネ利用や省エネ、節水、廃棄物削減、責任ある素材調達、健康的な環境、エンゲージメントを方針とし、運営においても持続可能性の実現に取り組むスターバックスのサーキュラーエコノミー型店舗「Greener Stores」や、原料調達から製造/流通/使用/廃棄に至るカーボンフットプリントを従来の約2割に抑え、その数値も公表したアディダス☓オールバーズのFUTURECRAFT. FOOTPRINT。
画像引用元:https://stories.starbucks.co.jp/ja/stories/2021/greener-stores-framework/
https://shop.adidas.jp/futurecraft-allbirds/

こうして地球環境との人間の生活の共生を図り、「経済活動と両立」させることを目指す企業の取り組みが活発化したことで、持続可能性の概念は徐々に具体化されるようになりました。環境規制などの逆境をバネに様々な視点や表現が生まれ、ユーザーと共に新しいライフスタイルを創り上げるような動きも現れています。留学時代にこの持続可能性という言葉の意味が分からなかったことが、今では懐かしく思います。

環境配慮だけではないサステナビリティ

2015年に国連総会で採択された持続可能な社会の実現を目指す開発目標「SDGs」の一般への認知の広がりもあり、サステナビリティという言葉が広く知られるようになりました。昨年のCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)で、産業革命前からの気温上昇幅を1.5℃に抑制することが参加国の間で合意されたことも背景に、最近では生産活動における全過程でのカーボンフットプリントを算定する「ライフサイクルアセスメント」という環境影響評価の手法も採られています。環境負荷軽減、或いは改善に向けた企業の活動が盛んになると同時に、生活者の消費意識も以前とはだいぶ違ってきています。

 

そうした状況下、サステナビリティの実現に向けた取り組みは、環境保全に比重が置かれている印象がありますが、それ以外の視点もあります。災害への対応を中心とした「レジリエンス」の考えや、身体的・精神的・社会的に良好であり幸福な状態であることを指す「ウェルビーイング」もSDGsがゴールとする「環境・経済・社会の3つの側面をバランス良く統合させ、地球上の全ての人々が長く幸せに暮らせる持続可能な社会の実現」に欠かせない視点です。持続可能性を拡大解釈すると、「文化の継承」も重要な要素なのかもしれません。環境保全に加え、それらの視点も既にユニークな着想や表現で具現化されています。

Stockholm Resilience Centerが考案し、2016年に発表したSDGsの概念を表す構造モデル「The SDGs Wedding Cakes」。 17の目標を生物圏・社会圏・経済圏の3つに類型化し、関係性を明確にしている。 社会圏には、「ウェルビーイング」に直結する目標が置かれている。
画像引用元:https://www.stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-14-the-sdgs-wedding-cake.html

レジリエンス・ウェルビーイング・文化継承の一事例
左)宮崎タオルが2013年に発売した、火災発生時に煙を吸い込まないように口を押さえるための水タオル。
非常事態で慌てていても開封できるように袋に切り込みを10箇所入れている。
中)晴れた日の空が青く見える「レイリー散乱」の現象を人工的に再現し、擬似的な青空と自然光を作り出すイタリアCoeLux社の照明器具。長時間室内にいる人たちのメンタルヘルスを考慮した製品。
右)日本各地の地元の産業や素材を採り入れた商品を展開するスターバックスのJIMOTO Series。
2018年から継続的に行われ、滋賀県の信楽焼のたぬきの置物をモチーフにしたマグカップなどが販売されている。
画像引用元:http://www.imabari-rescue-towel.co.jp/item.html
https://www.coelux.com/
https://www.starbucks.co.jp/jimoto/

トリニティの仕事においても個人の関心事としても近年、このサステナビリティの動向に注目しており、日々情報収集し考察することを習慣化しています。本連載では、その僅かながらの知恵を振り絞り、まだ抽象的な部分も多いサステナビリティの概念が、どのように具体化されつつあるのかを「デザイン」の観点から考察し、ご紹介させていただきます。次回は、サステナビリティのメインストリームである「環境に配慮したデザイン」について考察したいと思います。

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文責

篠崎美絵

トリニティ株式会社 執行役員 / デザインコンサルタント・クリエイティブ・ディレクター

インテリアデザイン事務所でファッションブランドのブティックをはじめとする商業空間の内装設計に従事。
ミラノ工科大学にてデザイン戦略のマスターコースを取得後、2003年にトリニティに入社。
デザイン、カルチャー、ライフスタイルの観点から消費者価値観や市場の潜在ニーズを洞察し、
具体的な商品/デザイン開発のアイデア創出のためのコンセプトシナリオ策定、及び
トレンド分析を行うデザインコンサルティング業務を担当。

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