トリニティの空間・住設デザインコンサルティング
トリニティでは、価値観とライフスタイル&デザインの定点トレンド調査(クロスオーバー・トレンドレポート、テックトレンドレポート)に立脚し、さまざまな空間・住設トレンド調査やプロジェクト支援プログラムを実施しています。新たなビジネスのためのトレンド・市場調査から、アイディア創出のための調査、検証のための調査まで、すべての段階でグローバルに、そしてクリエイティブに実施します。
空間・住設・オフィスのデザインコンサルティング事例
このシリーズでは、みなさまの「どんなことが頼めるの?」という声を受け、長年にわたりトレンドのコンサルティングを事業会社に届けてきた弊社のシニアリサーチャーの「読み解き」例を掲載しています。(第1回はこちら)
長年にわたりトレンドのコンサルティングを事業会社に届けてきた弊社のシニアリサーチャーが、空間デザインの変化を読み解くシリーズの第2回目です。
第1回では、「New Normal」の概念を歴史的に紐解きし、インターネット社会の到来、持続可能な社会への変革の影響下、変わりゆく空間のあり方から、空間デザインの変化の大きな潮流を読み解きました。
今回は、「住宅」をテーマに、価値観やライフスタイルの変化トレンドに加え、ニューノーマルな生活への変化、この数年単位での特徴的な空間デザイン事例を重ね合わせ、今後起こりうる空間デザインのトレンドを先読みして解説します。
ニューノーマルに対応する“あるべきかたち”を、具体的な事例をもとに理解し読み解くことで、今後の皆様のプロジェクトの全体構想や設計・デザインに活かしていただけるのはと思います。
(第2回 / 全3回)
目次
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ライフスタイルの多様化/自由化への適応
一つ一つ異なる間取りを実現させた実験的な集合住宅
東京都目黒区の東京電力社宅跡地に2008年に完成した賃貸集合住宅月光町アパートメントは、LOHASをテーマにした設計で当時注目されました。ですが、それ以上に、個別の住まい方ニーズを設計に落とし込んだ一つ一つ異なる間取りと仕様の集合住宅である点で非常にインパクトがありました。今でも時々思い出します。(注:なくなったわけではありません…)
玄関から上がってすぐのところに土間のような土足で上がる空間を設け、そこを人の出入りも頻繁な仕事場とし、奥の半分を住まいとする「SOHO」プランや、食やキッチンを中心とした生活を望む家庭に向けた食材を保管できる倉庫や、自家菜園ができるガーデンシンク付きのルーフテラスを設けた「お台所」プランなど、間取りを通して様々なライフスタイルを想像することができるユニークな取り組みでした。
画像引用元:lohas project 月光町アパートメント
こうした設計は、運用面などの問題でなかなか現実的ではないのかもしれません。ただ、コロナ禍による生活価値観や人生観の変化が追い風となって、今後さらにライフスタイルが多様化/自由化していくであろうことを踏まえると、その着眼点は、時代を先取りしていたのではないかと考えます。
不動産から動産へ(不動産である住宅も「脱不動」へ)
様々な暮らし方に臨機応変に対応できる「フットワークの軽さ」
日本では、人口減少により世帯数が2023年をピークに減少に転じると予測されています。
最近では、製造業においても、サブスクリプションや体験型店舗などのサービス事業を展開し、製品販売との相乗効果を図ることで、これまでの売り切り型から持続的な販売スタイルに舵を取る動きも見られます。昨今、巷でよく耳にする「Product as a Service」(製品のサービス化)の考えです。購入後(或いは入居後)長く付き合うことになる住宅には、この考えがより一層重要になってくるのではないでしょうか。顧客のその後の生活状況や価値観の変化にスマートに対応できる「柔軟性やフットワークの軽さ」が、設計の段階でも必要になってくると考えます。
また近年は、古民家やヴィンテージマンションを含む「中古住宅の市場拡大やリノベーションサービスの充実」や、コロナ禍で増加する二拠点生活ニーズで注目を集めるADDressの多拠点定額住み放題サービスや帝国ホテルの市場参入で認知が高まった高級ホテルのサービスアパートメント事業に見られる「定住しない住まい方」など、住居や住まいの選択肢も多様化しています。
世帯数の減少傾向に伴い、将来的に社会が海外からの移住者も歓迎するムードになれば、より多様な暮らしに最適化できる住空間が、おのずと必要になるでしょう。
最近では、早くもウィズコロナ生活に適応させた住宅が続々と誕生しています。
ICTの活用による非接触対応や、玄関に直結させた衛生空間の動線計画、居室/共有部へのテレワーク用のスペースの設置、さらにはベランピング需要に向けたテラスの拡張など、今後標準化し得る新しい住まいの形が具現化されています。ただ、New Normalの時代に突入し、先に申し上げた製品のサービス化や住まい方の多様化がさらに進むと仮定すると、これからの住設計に求められるのは、より「ダイナミックな発想」ではないかと想像します。
例えば、増築に加え「減築」もあらかじめ想定した設計。
2016年にプリツカー賞を受賞したチリの建築家、アレハンドロ・アラヴェナ氏の代表作「Half House」は、半分を助成金で建て、残りの半分は自分たちの努力で完成させる、災害や貧困で家を失った/持てない人々に向けた「持続可能な住居の提案」です。この発想を基に例えば、人生100年時代のロングスパンでの「ライフステージの変化に応じて増減築可能な住宅設計」なども考えられます。
また、在宅勤務が普及し、共稼ぎ世帯も増加していることから、自分時間と家族時間、オンとオフを居住空間の中で住み分ける「シェアハウスのような間取り」の需要もありそうです。
家族の一員としてだけではなく、一人の人間として個人の生活も重視する、若い世代やシニア世代には特に必要とされるのではないでしょうか。最近は、インターコムとしても使えるAppleのHomePod miniなどのデジタルツールもありますし、実現させるための環境も整っていると思います。
融合と分離
住空間も「コト」の掛け算や引き算で新しい暮らしを創造
本連載の初回でお話しした、近年の空間の融合や分離による新しい体験価値の創造は、ブックカフェやゴーストキッチンなどの商空間に限らず、住空間にもあり得ます。ベランピングやテレワーク対応もその範疇にありますが、よりダイナミックな発想として、2014年にオランダ・ロッテルダムに完成したマルシェを内包した集合住宅Markthal(MVRDV社が設計)のような例が挙げられます。
マルシェは、この集合住宅の近隣に住む人達も自由に利用でき、「近所付き合いの場」としても機能するように考えられています。また、住居の窓からマルシェを一望できるので、社会とのつながりを常に感じられて一人暮らしの高齢者にとっても良さそうですね。
コインランドリーは、自宅に洗濯機を持てない人が主に利用する設備空間ですが、カフェを併設しお洒落に生まれ変わったコインランドリーカフェの誕生により、自宅で洗濯できる人の利用も喚起するサービス空間として発展を遂げました。一般的に住空間の中で行われる洗濯という行為を外に出し、憩いや対話の場としての機能を付加したアイデアですが、例えばこれを集合住宅の共有部に設けたら、なかなか知り合う機会もない住人たちのマグネットスペースとして機能するのかもしれません。先のマルシェは融合の例ですが、これは「引き算」の一つの思い付き例です。部屋に余計なものを置きたくないミニマリストの価値観にも合いそうです。洗濯以外にも住空間の外に出せる日常行為が他にもあるのかもしれないです。
ビジネスの観点では、こうした考えの実現には乗り越えなければいけない障壁が多々あると推測します。特に、集合住宅ではハードルが高いと思われます。ですが、インターネットの普及や持続可能な社会への変革といったこれまでのNew Normalを経て、空間も様々な形で変容してきたことを踏まえると、それほど非現実的なことではないのかもしれません。上記の例のような既存の空間事例の発想を起点にアイデアを膨らませていくことも有効かと思います。注文住宅を販売されている企業でしたら、これまでの実績をデータベース化して、顧客ごとに異なる潜在ニーズを引き出すためのツールを開発することもまた有効ではないかと考えます。
New Normal時代の開発視点は、最大公約数から「最小公倍数」へ。生活空間においても「多様な価値観や生き方を受け容れる器」としての進化が期待されます。次回は、住空間同様に変革の時を迎えている「オフィス」をテーマに考えを共有させていただきたいと思います。
文責
篠崎美絵
トリニティ株式会社 執行役員 / デザインコンサルタント・クリエイティブ・ディレクター
インテリアデザイン事務所でファッションブランドのブティックをはじめとする商業空間の内装設計に従事。
ミラノ工科大学にてデザイン戦略のマスターコースを取得後、2003年にトリニティに入社。
デザイン、カルチャー、ライフスタイルの観点から消費者価値観や市場の潜在ニーズを洞察し、
具体的な商品/デザイン開発のアイデア創出のためのコンセプトシナリオ策定、及び
トレンド分析を行うデザインコンサルティング業務を担当。
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