自動車サプライヤーによる合同デザイン研修:VUCAを超えるバウンダリースパナ―へ
公開:2019年12月18日 更新:2019年12月18日
「自動運転」、「コネクテッドカー」など、自動車をとりまく状況が大きく変わる中、サプライヤー企業には「自社の強みを生かした商品力」とその「提案力」が強く求められています。
ここで重要なカギとなるのが「人材育成」。若手の力を伸ばし、知見を高めることで、社内のデザイン視点を強化し、従来のものづくりのスキームをバージョンアップさせること。ひいてはサプライヤー内部から、自分たちの力で “スーパー”サプライヤーに変革していくムーブメントをつくることが期待されています。こういった状況に応え、トリニティでは会社や職種をも横断するデザインラーニングプログラムを推進してきました。
キックオフの様子
SSDとは?世界で勝てる自動車サプライヤーのための合同デザイン研修
SSDとは、スーパーサプライヤーby デザインアクティビティのこと。2019年で5年目を迎えます。
日本の自動車サプライヤー達が世界で勝つための力をつけるため、初回以来、素材から加工メーカーまで幅広い企業の皆様にお集まりいただき、有識者による講演やワークショップを通じて若手を中心に、デザインの力を強化しています。
2019年度のSSDテーマは:バウンダリスパナー*
従来通りの企業成長や市場拡大が難しいVUCA*の時代。立ち向かう人材はスキルや技術、知識だけではなく「資質」こそが問われます。
*VUCA: 「Volatility(激動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」
2019年SSDはこの資質に焦点を当て、バウンダリースパナー*人材へと変化するきっかとなるプログラムとして「異なる領域の企業を2社訪問し、コラボレーションの提案を作成する」実施しました。
これまでの壁を破り、新たな事業領域への進出の可能性や、新しいかたちのビジネスのありかたを考え、推進するには、協業先、社内稟議、他部署連携、客先提案など、さまざまなステークホルダーに対し、目的に応じた「Relationship(関係性)をつくることが求められます。
本年度のSSDでは、OEMなど外部提案先への効果的なコミュニケーションの方法と、企画をプロジェクトとして強力に推進するために必要な伝達スキルの取得を目的に活動しました。
バウンダリースパナー(Boundary Spanner)は、1977年にハーバードビジネススクールのタッシュマン教授により発表された論文により広まった概念で、境界連結者や越境人材とも訳されます。組織や部門の境界を超えて多様な価値観の相乗効果を創発しながら、イノベーションや新規事業創出に貢献できる人材で、異なるネットワークをつなぐハブとなり、”限られた強い人脈”よりも”多数の弱い人脈”を持つことが特徴です。
2019年度SSDプログラム実施内容
本年度の参加企業は旭化成(株)、マレリ(株)、トヨタ紡織(株)など日本を代表するサプライヤー4社から、次期マネージャー候補クラスの将来を期待されている若手11名が参加。混成3チームに分かれ、交流を深めながら課題に取り組みました。
プログラムは全3回に分けて実施されました。
▼第1回 クロスオーバートレンドプレゼンテーション 7月
今後の市場を構成する“人”を読み解くためのインプットを行いました。
trinityが長年にわたり、継続的に実施している「クロスオーバートレンド」は、プロダクト、インテリア&建築、ファッション領域の最新デザイントレンド情報を国内外の展示会等への現地取材で収集し、「領域を横断したデザイントレンド」を捉えたレポートです。
▼第2回~第3回 先進企業訪問 9~10月
9月~10月にかけては、普段は機会が取りづらい先進的な取り組みを行う企業を訪問。
企業理念や価値観、どこにもない新しい取り組みを推進していくうえでの考え方などをヒアリングし、現場の知恵やマインドを学びました。
1)デジタル・イノベーション企業 株式会社ウフル様 訪問 (第2回 9月 東京)
株式会社ウフル(東京)はIoTに関するビジネス立ち上げや、データなどの活用方法などをトータルでサポートする企業です。
IoTを活用したビジネスや現場改善を支援する『IoTスタートプログラム』やIoT製品・サービスづくりを包括的に支援する『enebular』などのサービスを提供されています。大手との協業実績も多く、業界に関係なくソリューションを提供しており、Iot導入へコンサルティングから実装まで一貫して行ってきた実績があります。
2)コンテクストを意識した革新的なモノづくり企業 株式会社スノーピーク様 訪問 (第3回 10月 新潟)
スノーピーク株式会社は新潟県三条市に本社を置くアウトドア総合メーカー。「自らもユーザーである」という立場から、「自分たちが本当にほしい製品」を作ることで、「自然の中で豊かで贅沢な時間を過ごすアウトドアの楽しみ方」を確立。創業以来一貫して革新的な新製品の開発を行い、顧客本位の高品質なモノづくりを続けています。
▼第4回 コラボアイデアプレゼンテーション&合同講評会 11月
本年度の大詰めとなる第4回では、効果的な企画・提案を行うための巻き込み力と、伝達スキルの獲得を目的に、コラボ企画の設計と、プレゼンテーションを行いました。審査は、各社マネージャが行い、協議の上で決定しました。
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皆さまのご感想を一部ご紹介します。
クロスオーバートレンドプレゼンテーションの感想
・情報量・質の高さに加え、御社の分析・考察力の高さから非常に有益なアウトプットになっている。(マネージャー)
・情報量の多さ、幅広さ、質、そこからのトレンドの読み解きは参考になりました。(マネージャー)
・デザインのトレンドと社会情勢等の相関関係を時系列的に知ることができ、勉強になった。(参加者)
・時代の変化の速さを実感した。今のままでいいのか?問題意識を持てた。(参加者)
ワークショップの感想
・参加メンバー各自が”バウンダリースパナー人材”について自発的に考えながらワークに取り組めた(マネージャー)
・自分がやらなければならない!という責任感を高められる。(マネージャー)
・日常業務では及ばない領域にまで思考を広げることができ、新しいものの見方を得ることができたと思います。(参加者)
・自分の直接的業務はどうしても客先ありきの仕事なので視点が非常に限定的になってしまい、活かすことは正直難しいかと思う。ただそういう視点を持つことや、自社により一層の危機感を持つことができたのは大きな収穫。(参加者)
・企業訪問や他社との共同ワークなどで、社内では得られる事ができない様々な知識を学べたと思う。(参加者)
SSDのこれから
来年でSSD活動は7年を重ねます。
サプライヤー企業同士の横のつながりや、実力に磨きをかけた各メンバーも揃ってきました。
今までのような若手の教育、という枠だけに限らず、活動を継続しているからできることは何か、参加企業の皆さんと並走しながら考えSSDは更に進化していきます。
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文責
文責:米山良明
トリニティ株式会社 デザインリサーチャー
精密機器メーカーで海外営業・マーケティングに従事した後Design、 Academy Eindhoven(オランダ)でプロダクトデザイン・情報デザインを専攻。帰国後は国内のプロダクト・インテリアのデザイン事務所でデザイナーとして勤務。2017年よりトリニティで現職。ジャンル問わず、デザインリサーチャーとして最先端のデザイン、技術等のトレンド情報を収集、分析している。