トリニティ株式会社

答えのないものを、共に考え、創りあげていくパートナーを持つことの意味。

ヤンマーホールディングス株式会社

取締役 CBO ブランド部長

長屋明浩氏

聞き手:湯浅 深澤(Trinity株式会社)

答えのないものを、共に考え、創りあげていくパートナーを持つことの意味。

ヤンマーホールディングス株式会社

取締役 CBO ブランド部長

長屋明浩氏

聞き手:湯浅 深澤(Trinity株式会社)

“中の人”も一般の人々も共に巻き込んでいく 新しいブランディングへ

長屋さんとは、前々職であるトヨタ時代からのおつきあいになりますが、トリニティと仕事をするようになった経緯など覚えていらっしゃいますか?

トリニティ 湯浅 保有美(以下、湯浅)長屋さんとは知り合ってかれこれ20年近く。正直、最初にどこでどう出会ったのか覚えていないくらいです(笑)。思い起こしてみて強く印象に残っているのは(長屋さんがトヨタ自動車のデザイン室長時代に)世界最大規模のデザインイベントへの出展をお手伝いした時のことです。

ヤンマー 長屋明浩氏(以下、長屋)最初に出展した時だから、2005年ですか。現地の会場でお会いしましたね。

湯浅当時、日本企業としても初、そして自動車メーカーとしても世界初出展というトヨタさんはもちろんトリニティとしても大冒険の最中、現地で担当者の方と準備をしているところに、長屋さんがイタリアンシャツに幅広のネクタイというスタイルで颯爽と現れたんです。そして、トヨタにおけるカーブランドの意味や、なぜデザインイベントに出展するのかなど、背景を滔々と語ってくださって。「あ、そういうことだったんだ!」と、それまでの一つひとつのことがストーリーとして繋がって、すごく腹落ちしたという思い出があります。

長屋懐かしいですね。当時の出展も、いまヤンマーで取り組んでいるアニメーション映画制作も同じなのですが、ブランディングは「世界初」でないと話題にならないし、意味がないと僕は思っていて。

湯浅「未ル」ですね!私も公式サイトを拝見してワクワクしています。ロサンゼルスで行われたアニメエキスポ出展のニュースも、話題になっていますね。来年の公開に向けて、ヤンマー社員の方はもちろん、世界中の人々の期待感も一緒に盛りあげていく。こういうやり方があったんだと、私も思わず惹きつけられました。

しかも、“中の人”(ヤンマーのデザイン部所属の方)がロボットのデザインしているということに大変驚きました。社内(特にデザイン部の)の雰囲気も一変したんじゃないですか?

長屋かなり変わりましたね。トラクターのデザインしかしたことがなかった人間がいきなりアニメのキャラクター(ロボット)をデザインするわけですから、本当に大変です。それでも、企業文化を変えていくという意味で、(企業の)“中の人間”がデザインしないと意味がないと思っていて。しかも、映画のクオリティとしても、企業の自己満足ではなく、アニメとして商業化出来るレベルを狙って開発していっています。

ブランディングの世界では、インナーとアウターで分けて話されることが多いですが、映画制作を通じて、ヤンマーの“中の人”も、一般の人々も一緒に巻き込みながら、共有できる世界観を創りあげていきたい。そこまでやりきって初めて、僕がめざす新たなブランディングになると考えています。

トリニティは「リベラル」なパートナー

いきなり本題で恐縮です。トヨタのデザイン部長からヤマハへ、そして現在はヤンマーのCBOと、活躍の場が変わっても、トリニティと長くお付きあいいただいていますが、長屋さんからみて、トリニティはどんな会社ですか?

長屋ひとことでいうと「リベラル」だということでしょうか。トリニティさんは、日本におけるデザインコンサルティング会社の草分け的存在ですが、得体の知れないといいますか、それまで前例がないようなリベラルなプロジェクトを受けていただける会社はなかなかないです。これまでを振り返ってみても、僕のなかでリベラルなテーマがあがってきた時に、毎回おつきあいいただいてきたのかなと思っています。僕の勝手な感想ですけど(笑)。

湯浅:ありがとうございます!これまで「リベラル」という言葉を自分たちに当てはめて考えたことはなかったので、とても新鮮です。

確かに長屋さんからのご相談は、いつも“ゼロスタート”。通常私たちが提供しているような手法は、到底当てはまるわけもなく、抽象的なお題に対して「さて、どこから手をつけようか」、「そもそもこれってどういうこと?」とゼロベースで考える。ワクワクする一方、手探り状態で、毎回かなりの体力を使ってます(笑)。

長屋:もちろん企業活動として最低限やるべきことはやるという前提の上でですが、重要なプロジェクトにおいては、絶対に過去にやったことのないことをやろうと決めています。既に前例があったり、雛形があるようなものは別の誰かがやればいいので。

だから実際「これまでなかったことをやろう」となった時に、既存にとらわれず新しいことを試行錯誤しながら考えられる「リベラリズム」があるパートナーさんじゃないと組めないですよね。何をしたいのか、どこを考えなければならないのか、理解してもらえないですから。

クリエイティブとは「狂気」

「リベラル」という新鮮なキーワードを先ほどいただきましたが、その先に期待することは?

長屋:生成型AIの登場などを受けて、「デザイナー」という仕事はこの先消えてなくなる、という人も出てきていますが、僕はむしろ逆で、この先“真のクリエイティビティ“が求められるということが明確になったと思っています。

AIの力ってすごいと思うんですけど、教えたこと以上は絶対できないんです。だからいろんなイメージを描かせても“適切”なことをするんですよ。でも“適切”で止まっていては進化は得られません。“適切”ではなくて、もう“狂気”のレベルまでいかないと、新しいものは生まれない。だから「リベラリティ」の次は、真の「クリエイティビティ」ということを追求していかないと、“適切”留まりのクリエイティブは潰れていきますよね。みんなAIで代用できてしまいますから。

湯浅:クリエティブは、“狂気“!

長屋:新しいってどういうことかというと“狂気”なんです。今までなかったこと、なんでそんなことするの?っという。このどうやって常軌を逸することができるか。そこにこそ新しい文脈があって、過去のそのロジックを全部破戒してしまう力を持つんです。それは、人間でしかできないこと。いかに“合理的に考えないか”、こそこれからのクリエイター、デザイナーが生き残っていくためには重要なことだと思います。

湯浅:コロナを超えて、いまちょうどきっと時代を変える、時代が変わるポイントにきているなかで、クリエイター、デザイナーもそうですけど、普通の人にも言えることですね。

長屋:“狂気”を生み出すことを閉じた一人の世界でやっていても、ただの危ない人。人類の敵になってしまうんです。でも誰か一人でも「共感」してくれて、仲間が生まれれば、開拓者になれる。人類はきっとこうやって歴史を変えてきたんだと思います。

どんなことをやるか以上に、誰とやるのか

これからのクリエイター、デザイナーという話もありましたが、トリニティはもちろん長屋さんご自身も関係の深いインハウスデザイナーの皆さんにメッセージをお願いできますか?

長屋:インハウスデザイナーだけというより、ブランディングやマーケティングに関わる人たちも当てはまると思うのですが、とにかく組織の中に所属している人は、まず「自分の頭で考える」ということを実行すべきだといいたいです。見ていて思うのは、すぐ誰かに投げようとしたり、専門家と言われる人からすぐ知識を得ようとしたり、すぐ検索したりする。結局、専門家に聞いたというだけで盲信してしまっているんですよね。自分で考えずにそれが正しい、と。

これは自分自身、肝に命じてやってることですが、僕が考えなくなったらもう終わりなんですよ。部下に丸投げして、あとは知らないみたいな。とにかく一緒になって考えて、一緒になって答えを出していくということを繰り返していくと、まわりの能力がすごく伸びてきますし、イキイキしてくるのが伝わってきます。

だから、今回の映画制作でも、ロボットは自分たちでデザインしているわけです。すごく大変なことになるのもわかっているのですが、やはりそこをやっていかないといけない。

とはいえ、自分たちだけでできないことも当然ありますので、トリニティさんのように外部の人たちとも一緒に組んでいくわけですが、どんな人を連れてくるか、どんな人とつるむかというのはとても重要。「トモダチはよく選ぶ」ということです。

湯浅:長屋さんは普段から名言が多くて、私は勝手に“長屋語録”と読んでいるのですが(笑)、かつて「どんな仕事をするかより、誰と仕事をするかの方が重要だ」とおっしゃっていたのを覚えています。

長屋:そこですね。自分のアタマで考えていいトモダチを選ぶ。 トモダチの質は自分の実力ですね。だから、いいトモダチがいっぱいいる人は、すごい実力者ということです。

湯浅:長屋さんはジャズもやってらっしゃいますけど、ジャズのセッションと同じなんでしょうね。誰をパートナーに演奏するかで全然違うものになるという。

長屋:しかも人だけでなく、場所や曲や、その日の自分の感情でも変わっていく、そこがまた面白いところで。ただ、その、何をやるかじゃなくて、やっぱりその誰かが誰と どういう状態で誰とやってるかっていうのはかなり難しい。その場がこう出来上がってて、もうこの空気間って2度と戻ってこないので、その場しかない。いうなれば“一期チーム”!

これからは、いろんなことがそうやって起きていくような時代にますますなっていくでしょうね。

「未ル」

2022年11月、ヤンマーホールディングス株式会社はオリジナルアニメプロジェクトの始動を発表。2023年7月には作品タイトルの正式決定(作品名:「未ル(Miru)」)にあわせ、北米最大級のアニメイベント「Anime Expo 2023(会場:ロサンゼルス)」に出展。2024年公開予定。

 

制作・プロデュース:ヤンマーホールディングス株式会社

協力:btrax Japan合同会社

公開時期:2024年

脚本:森田 繁(スタジオぬえ)

(取材・撮影日:2023/07/10 場所:YAMMER TOKYO / YANMAR MARCHÉ TOKYO 所属・肩書は取材当時のものです。)

”リベラルなパートナーとして、企業経営にクリエイティビティをもたらしていく。”

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