石丸さんとの最初の仕事は、2016年にはじまった新領域商品企画プロジェクトでした。それが昨年「エクスプロリカ」というブランドとして、市場デビューしたという嬉しいお話も届いています。改めて当時どんな背景、どんな想いでプロジェクトを始められたのでしょうか。
業界以外の“外の世界”へ視野を広げ、変化へのきっかけを「デザイン」する。
株式会社東海理化
ニュービジネスマーケティング部 主幹
石丸晋也氏
聞き手:山口 深澤(Trinity株式会社)
業界以外の“外の世界”へ視野を広げ、変化へのきっかけを「デザイン」する。
株式会社東海理化
ニュービジネスマーケティング部 主幹
石丸晋也氏
聞き手:山口 深澤(Trinity株式会社)
石丸さんとの最初の仕事は、2016年にはじまった新領域商品企画プロジェクトでした。それが昨年「エクスプロリカ」というブランドとして、市場デビューしたという嬉しいお話も届いています。改めて当時どんな背景、どんな想いでプロジェクトを始められたのでしょうか。
株式会社東海理化 石丸晋也氏(以下、石丸):少し遡ってお話しすると、私は大手自動車メーカーにしばらく出向した後、(東海理化の)デザイン部門に戻りました。そのタイミングでデザイン部として以前から取り組んでいた「産学協業プロジェクト」のリーダーを引き継いだんです。学生さんの自由な発想を取り入れながらモノづくりをしていくことは、すごく刺激にはなったのですが、一方でビジネスに直接結びつけていくには難しく、モヤモヤしていた時期がありました。
引き続き新しいことには取り組んでいきたいけれど、やり方を変えなくてはと思い当時のデザイン部長に相談したところ、時期的にも自動車業界自体が変革期を迎えているなかで、自動車以外の事業を創っていくようなプロジェクトとして、デザイン発信でやってみてはどうか、と後押ししてくれたという背景がありました。
トリニティ株式会社 山口崇(以下、山口):プロジェクト自体も、単に会社から降りてきたのではなく石丸さんの熱意だったのですね。
石丸:「新領域」と言いつつ、当時私は他の業界のことはもちろん、ビジネスのフローということに関してもまったく知らなくて。自動車業界のインハウスデザイナーとしての経験しかありませんでしたから。その時プロジェクトを一緒に進めることになった同僚が過去にトリニティさんと仕事をしたことがあるとのことで、「まずは話に行ってみよう!」というのが最初です。
山口:懐かしいです。東海理化さんがこれまで培ってきた技術や経験を活かしながら、それを新しい領域で展開しようというプロジェクトでしたね。どの技術をピックアップして、どういった分野で活かしていけばいいのか。スタートに東海理化さんの強みを棚卸しするワークショップを実施したのを覚えてます。
石丸:山口さんとセッションを重ねていくなかで、他の業界の事例などを聞き、いろんな世界や可能性が見えてきたんです。逆に言えば、自分は自動車業界以外は知らないんだということを痛感して。確かにそれまでも展示会や他社のショールームなどには足を運んでいましたが、その先にはつながっていきませんでした。
これまでにないことを考えるのに、同じ業界の中しか知らない。変化が必要だといいながらも、自分の仕事領域はここまでと決めてしまっている。今思えば、そんな“内向きの思考”に危機感を持ったことが、何度も中断しながらも商品化まで漕ぎ着けた推進力のひとつになったかもしれません。
ワークショップ等を重ねながら、アイデアや斬り込む領域が絞り込まれていったわけですが、あえて既存領域から一番遠いともいえる「BtoC」に挑戦しようと思った理由はありますか?
石丸:業界としても会社としても変革が求められていたなかで、当時のデザイン部では積極的に他業種と交流することが少なかったように感じます。ですが私はとにかく外の世界が知りたかったということ、それともう一つ、BtoCならではの“エンドユーザーの声が直接聞ける”という経験をしてみたかったというのがあります。
BtoBの大前提として、客先が要求するものに応え、決められた日程の中で客先が納得するデザインを提案する。そこで先方のOKが出ればそれで終了です。しかしBtoCは、何をつくったらいいのかから自分たちで考えなければならないですし、作ったところで良いものでなければ買ってもらえません。よくも悪くもエンドユーザーの反応が返ってくる、そういう経験はBtoBではなかなかできません。だからこそ体験してみたいと強く思いました。
山口:反応がダイレクトに業績に反映されるという点で、責任感というか結果への重圧というのはシビアかもしれませんね。あえてそこに切り込んでいった石丸さんの意思の強さは、プロジェクト中も感じていました。しかも、石丸さんはアイデアの“タネ“の段階から、仕様を詰めていき、プロトタイプをつくり、生産体制を整え、市場に出す、そのすべての過程をご自身でクリアいくという。
石丸:初めに企画の全体像と各担当者を構築し、デザインは誰、部品調達は誰、営業販売は誰…といったように領域を設けるのが企業では当たり前かもしれません。ただ、私はとにかく商品が市場に出てエンドユーザーに渡るまで、誰に何をいくらで提供し、どう作ってどう売るかまでのすべてに関わりたかったし、知りたかったんです。一度各フェーズを体験しておきたいという意識がすごく強かったですね。
本当に、私自身もデザイン部の同僚も経験のないことばかりで、社内の誰に話を持ち掛けて相談したらいいのかもわからない。相談してもなかなか解決策が見つからない。まさに“壁“だらけの状態。そんな時、明確な依頼というよりも、なんとなく山口さんに雑談のように相談したりしていました。現場の状況を理解してくれていて、かつ広い外の視点(第三者視点)で向き合ってくれる、会社の内部には持てない貴重な立ち位置にいてくれた気がします。何気ない会話のなかに、いつもヒントがあるというか。
山口:あの頃は僕も意識して、自動車業界以外の事例などを話していた気がします。話をするだけでなく、有識者のところにプロトタイプを持って一緒にインタビューに行ったりと、いろんなことをしましたよね。できるだけ、既存の領域のなかだけでは接点がなさそうな人の声を直接聞く体験を提供したいなと。
そういう意味では、石丸さんには私たちが運営している「トピックス※」にも参加いただきましたよね。
石丸:確か2019年から2年間参加しました。いろんな業界の方が参加されていましたよね。気づいたのは、同じデザインの業界でも会社や業種が異なれば、取り組む視点や態度というのが異なっているということです。それまで意識していなかったのですが、他社のインハウスデザイナーと深く話をするような機会というのは、ありそうでなかなかないということ。そういう意味で、トリニティさんは“外の世界とつながる“ハブ“的“存在と言えるかもしれません。
山口:ありがとうございます。外の世界を知る、社会とのつながりを意識するということでは、私たちトリニティ自体も同じことがいえる気がします。僕たちの場合、クライアントが多岐にわたるので、皆さんと一緒に取り組むことで、いろいろな業界に触れることができているのかなと。そこで汲み取ったニーズやその先に出てくるであろう課題などにあわせてトリニティとして提供していくことも、常に変化させていっていますね。
石丸:展示会でアウトプットを見る、業界のリサーチをする、ということだけでなく、一歩踏み込んで、“外の人“と直接つながり、自分の仕事と社会のつながりを意識するというのは大事なことですし、特に会社の仲間のデザイナーには出てみてほしい、“閉じている“ということに危機感を持ってほしいと思っています。
※トピックス…異業種のインハウスデザイナーが集まり交流する勉強会。詳細はこちら
プロジェクトの遂行にあたっては“壁”だらけだったというお話もありましたが、それでも商品化を実現した石丸さんの強さはどこにあるのでしょうか?
石丸:ずーっとモヤモヤがあって…それは「デザイン提案だけで、商品化までいかない」つまり、実際に売れるものが生み出せないと。またある先輩からは「そんなBtoCの企画をデザイン部がやってもムダ」とまで言われました。その時「まずは自分のためにやりきろう」と吹っ切れたんですよね。一つひとつの苦しい体験やそこで得た知識を、自分の力にしていこう。そうすればツライことも諦めず乗り越えられ、その経験は今後絶対に活かせる気がしました。
幸運にも当時のデザイン部は、企画者が「これをやらせてほしい!」と説得すれば、まずはやってみようと予算が付き企画をスタートさせることができました。この恵まれた環境を活かしきろうと思ったわけです。これから先、ますます不透明な時代になっていくなかで、会社の体制がどう変わったとしても、もしくは自分の環境がどう変わっても、生き残っていくための経験を積み、強さになればいいなと思ったというのはありますね。
山口:「自律」というキーワードを人材教育でもよく聞きますが、まさにその境地!本来のスキルアップ、リスキリングというのは、やはり自分のためにあるということを改めて理解できた気がします。自分の専門を軸に、外の世界とつながりながら、自分の領域を広げていく。これからの「学び」へのヒントになりますね。
最後に、石丸さんの次なる“野望“は、どんなことを思い描いていますか?
石丸:現在は「ニュービジネスマーケティング部」へ異動し「デザイン部」との兼任という形で所属しています。同じ会社のなかではありますが、部の外から改めて「デザイン部」をみて、もっと元気にしたい、と考えはじめています。受注型から企画提案型へ急速な転換が起きているなかで、繰り返しにはなってしまいますが、自分が何をしたいか、それには何が必要で何が足りないか。私はそのヒントが異業種交流のなかで得られたと思っています。もっと外に目を向け、視野を広げるような活動を取り入れていけるようにしたいですね。
山口:なるほど。トリニティでも業界を問わずおつきあいの深いデザイン部、そしてデザイナーの皆さんを元気にしたい!というのはずっと思っていまして、プロジェクトを企画したり、「DXDキャンプ」というデザインを起点に自身のビジネス領域を広げていくことを狙ったスクール事業なども立ち上げたりしています。石丸さんがめざすデザイン部を元気にするプロジェクトにも、ぜひ参加させてください!
自動車の内装という限られた空間で、ストレスを減らし心地よさという機能を発揮する。東海理化が培ってきた“ヒトとクルマの接点”としての「ふれる」を起点に、「新しい心地よさを生活空間にも届けたい」という想いをカタチにした新ブランド。
exploricaブランド立ち上げのきっかけとなった「ペン」。自動車内装で培った「ヒューマン・マシン・インターフェース」技術をベースに、握る心地よさはもちろん、ペンを持つ「手」をも美しく見せるという、従来の文房具にはない価値を実現している。ペン本体の表面は自動車部品の研磨も手掛ける職人が1本1本手作業で磨きあげているという。
(取材・撮影日:2023/07/19 場所:Trinity株式会社 東京オフィス 所属・肩書は取材当時のものです。)
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人を見つめインサイトを引き出し、独自の価値を製品・サービスに実装します。
主体的に『考え・行動』する、自律型の人と組織をつくり、人的資本経営を支援します。
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