このブログでも以前にご報告しましたが(「福井県/政策立案にむけた「デザイン思考」研修」)、トリニティは昨年に続き今年も福井県庁、そして工業技術センター等の関連する職員の皆さんと、デザイン思考を活用した「政策デザイン・ワークショップ」を実施しました。
政策とデザインの重要性の議論やそのランドスケープについては、様々な機関・大学等で展開されていますが、福井県というアドヴァンスな取り組みを重ねている自治体での「実践」が、まさに今回も実践されたといえます。
*福井県の取り組み例
「ふるさと副業」で個人と地域の成長を。福井県が取り組む関係人口の新しいかたち(SUUMOジャーナル)
https://suumo.jp/journal/2020/06/08/172824/
福井県、職員の副業・兼業を解禁 基準明示に歓迎の声(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51949810Y9A101C1962M00/
政策にデザイン思考を活用する?!
近年、公共セクターにおいても、デザイン思考を政策形成に取り込む動きが加速されています。従来の前例主義だけでは、急速に変化・変容する地域社会を良いものにできないとの認識からでしょうか。
福井県でも杉本知事のもとに未来戦略課によって、デザイン手法を政策に活かそうと果敢に活動しています。
本年度のプログラムは、下記のステップで進められました。
フレームワークを活用し、「防災」「農業」「アート」「共生」での問いを探る
スタートは、昨年や今年の春に基礎編として一緒にやってきた「デザイン思考」のおさらいとワークショップ。いかに生活者の視点に立つか、共感とは何か、インサイト(本音や潜在欲求)とは何かを押さえながら、カスタマージャーニー、ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークを活用して、各グループの担当領域である「防災」「農業」「アート」「共生」を領域とした本当の「問い」を探っていきました。
また、アイディアが出ない時に活用できる、アイディア強制発想のメソッドも活用。個人の知恵だけでなく、参加者全員の知見やアイディアを織り重ねながら「チームで考える、チーム脳」も刺激しました。
本プログラムでは、グループワーク事に「問い」を立て直すワークにかなりの時間を掛けています。
私達は無意識に、事前に設定したゴールに到達しないことを「課題」と称して問題視し、それを解決するための手法に右往左往しがちです。ですが、その「問い」がそもそも適切でないことも多々あります。
設定したゴールは本当に皆が求めているゴールか?そのゴールは何のために設定されたのか?
課題と称している目の前のハードルは、それ以外に考えるべき、配慮すべき問題が隠されていないか?日々の職務の中で会話にはなっていないけれど、なんとなく感じていること、暗黙知として忖度されて
処理されていることなどないか?、、、等々。
これらを丁寧につむぎ、話し合っていくことで、グループ毎に目指したいゴールと課題が設定されていきました。
各ワークショップ実施日の間には「ラーニングジャーニー」と「インサイト調査」の宿題に取り組みました。忙しい業務の中でも、参加者はかなりの時間とエネルギーを掛けて、実際に汗を流しながらこれをクリアしていきました。
この宿題を通して、同時に新たな県内の人脈をひろげて、現場で「ひと」の話やインサイトに耳を傾けながら、政策アイディアを膨らませていきました。
最初の宿題の「ラーニングジャーニー」
これは行政サービスのアイディアに関係するプレイヤーを想定して
その人たちを訪ね、或いはオンラインでヒアリングを重ねるというもの。
これによって「はじめてこんなに一生懸命に県民の話を聞きました!」という声も続出。
試行錯誤をスピーディに繰り返す「破壊ブレスト」
デザイン思考では、形にして試行錯誤を繰り返す「プロトタイピング」を重要視しています。
小さくスタートさせて皆の反応を受け取り、改善しながら周囲を巻き込んで仲間にしてくやり方は、モノづくりに限らず、政策でも大切なポイントです。
しかし、限られた時間の中での実施は難しい側面があります。
そこでトリニティでは「破壊ブレスト(ブレインストーミング)」と称するロールプレイイング手法を取り入れて、出てきたアイディアを様々な視点で(あえてネガティブな)意見を浴びせるワークを取り入れました。この手法は組織内で知り合いや上下関係があると、なかなか批判的な意見がいえない場合にも、活用できます。
今回は、アイディアが6割ほど整ったあたりで、破壊ブレストを実施。
役割分担を、福井県民、上長、そして知事に割り振り、それぞれの立場の視点でのネガティブポイントを大量に出します。この批判的な意見に応える形で、再度アイディアを変容させるプロセスを踏みました。
このプロセスを採用することで、実際にスタートさせる前に、さらに踏み込んだアイディアの検討が可能になります。
デザイン思考は、行政運営の壁を越えられるか
デザイン思考の導入により、このような政策イノベーションが実施する際には、困難な問題が待ち受けていることが想定されます。
・ そもそも、県民の本音がなかなか聞き出せない
・ 前例がないので、デザイン思考の成果が組織の中で共有できない
・ デザイン思考の成果は、効果が曖昧で、評価が難しい
(経済評価?移住人員?組織内のモチベーション?制度改革?成果者の声?一体何がKPI?数値化されるの?)
・ 行政は年度予算で進むので、トライ&エラーを繰り返すことで精度を上げていくデザイン思考は予算に組み込みづらい
・ 組織の中に、意欲とスキルがある「デザインシンカー(デザイン思考を推進する人)」がいないと継続が難しい。
・依然、組織の壁が厚い
こんな声があがるのではないでしょうか。
しかし一方で、今回このプログラムを終了した参加者の声を聴くと、ほぼ全員がこのデザイン思考のメソッド、あるいはこの思考&ワークプロセスによって、県民との対話が充実し、目の前の現実の理解やその次のアクションが変わりそうだと答えています。
県民や市民をひとつの視点からおおまかにとらえるのではなく、一人ひとりを詳細に診て(観て)生活者と共に一緒に考えていく。
この、担当者ひとりひとりの態度や行動の小さな変容こそが、デザイン思考の成果です。
それによって、自分の目の前の現実も変わり始め政策アプローチにも変化の兆しが生まれていきます。
デザイン思考の手法は、私達が生み出したい未来のための政策イノベーションに、そして何より個人の行動変容を引き出す鍵となり得るのだと改めて実感しました。
参加者の声
福井県丹南土木事務所 道路課 越前西部グループ 企画主査 朝井 範仁
質問1=デザイン思考をやってみて、良いと思ったところは?
私が担当する道路行政でも、道路の利用者・用地交渉のお客様といった住民の方が自分でも気づいていない本当のご要望を、
インサイト調査の手法で把握することができれば、より住民の皆様に寄り添ったサービスを提供できそうだと思いました。
質問2=デザイン思考にふれて、自分自身で変わったことは?
自分の力を過信することなく、チーム脳・チームの力を信じ、チームみんなで考えるよう心掛けています。
質問3=来年実施するとしたら、もっと改良して欲しいところはありますか。
今回は感染症のこともあり難しかったと思いますが、懇親会などもやりたかったです。
福井県交流文化部文化課 文化振興G 主事 橋本 泰樹
質問1 デザイン思考をやってみて、良いと思ったところは?
福井県では、徹底現場主義として現場の意見を十分に聞くことが重要とされていますが、
単なるインタビューではなく、インサイトを意識した聞き取りを意識することが、
現場の意見を政策に反映する際の参考となりました。
質問2 デザイン思考にふれて、自分自身で変わったことは?
・事業を検討するにあたって、自分の経験や体験から考えることが多かったですが、
デザイン思考の中では様々な関係者にたくさんインタビューをする必要がありました。
・さらに、インタビューして導かれたアイデアでさえ常に改変されるという経験を通して、
一度できあがったアイデアや政策を崩すことをいとわなくなりました
質問3 来年実施するとしたら、もっと改良して欲しいところはありますか。
・今回、「文化」という捉え方によってはとても幅広いテーマでした。
・さらに文化事業は、社会に与える影響を数値化しにくい分野であると思いますので、
研修の中では、ターゲットや方向性へのアプローチの仕方に少しご助言があると
スムーズにインタビュー先などが決定されていくように感じました。
トリニティではイノベーションの手法として、さまざまなワークショップや調査をデザインの視点から実施しています。
今回、「政策」にデザイン思考を活用しましたが、これ以外にも経営や人材開発、基礎研究開発など、応用先はさまざまに広がっています。
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