この記事はこういったみなさまに役立つように書かれています
はじめに
私たちトリニティは、「デザインコンサルティング」を生業としていますが、一体どんな仕事をしているの?と尋ねられることがよくあります。
「デザイン思考」に触れたことのある方にとっては、新製品・サービス開発や組織開発を目的としたワークショップや提案を実行する業務であるとのイメージも強いようです。これらの業務はもちろん実施しているのですが、実は、トリニティでのデザインコンサルティングの質を支えているのは、事実をもとに読み解きを行う「デザインリサーチ業務」といっても過言ではありません。
とはいえ、「デザインコンサルティング」同様、「デザインリサーチ」もまだまだ市民権を得ているとは言い難く、効果的な場面であっても、十分にご活用いただけていないのが現状です。
また、「デザインリサーチ」=「観察調査」や「インタビュー調査」といった誤解も多く、多様な調査方法をグローバルに実施しているトリニティとしてはさみしい思いをしています。
そこで、この記事では、
「デザインリサーチって何? ふつうのリサーチと何が違うの?」
「どんなときに使うの? ビジネスでは何の役に立つの?」
「効果的な活用方法は?」
という疑問にお答えするため、トリニティが実施しているデザインリサーチを、ビジネスの課題やシーンに合わせた全6回(予定)でガイドいたします。
初回のデザインリサーチガイドは
・第1回 はじめに デザインリサーチとは何か?
として、そもそもデザインリサーチとは何なのか? 私たちの日常のビジネスにどう役立つのか? マーケティングリサーチとの違いはどこにあるのか?についてのトリニティの考えをご紹介します。
そもそも「デザインリサーチ」とは何か?
デザインリサーチは、欧米の研究機関やデザイナー、コンサルティング会社によって数十年前から展開されている人間中心の調査手法の総称です。顕在化されているデータだけを分析するのではなく、解釈の幅が大きい質的な情報から、いかなる時も「ひと」に焦点をあてて定性的に掘り下げ、未だ言語化されていないインサイトや将来、価値観を拾い上げて、未来に向けて解決するべき課題としての真の「問い」を掴めることが特徴です。
今後ますます予測不可能となる市場の中で、新しい価値を考えイノベーションを生むために、従来のマーケティング調査に加えて、デザインリサーチのアプローチは、既に必須といえます。
「デザインリサーチ」と「マーケティングリサーチ」の具体的な違いは何か?
はっきりとは区別できない「デザインリサーチ」と「マーケティングリサーチ」の境界
実際のところ、デザインリサーチの定義はあいまいであり、いわゆるマーケティングリサーチとはっきりと区分できるものではありません。また、マーケティングリサーチとデザインリサーチのどちらか一方だけが利点をもつというものではなく、状況や目的に応じて互いに補い合う関係にあります。
特に調査手法については、デザインリサーチ=定性調査とされる向きもありますが、マーケティングリサーチにおいても長らくインタビュー調査や観察調査の手法が用いられていることからも、手法によって分類することは正確さを欠くといえます(下表「調査手法」を参照)。さらに、定性情報を定量化する試みや、質的情報を定量データからマイニングする試みも常に行われており、定量 VS 定性という対立軸で語ることはミスリードにつながりかねません。
「デザインリサーチ」のトリニティの指針
そこで、長年にわたり、日本でのデザインリサーチにかかわってきたトリニティでは、私たちの実践すべき「デザインリサーチ」の指針として、便宜的に下記のような分類をしています。
※マーケティングリサーチの意義や手法は日々進化しており、この表に収まらないケースのあることにご注意ください。
表:「デザインリサーチとマーケティングリサーチの便宜的比較」トリニティ株式会社作成
違い1 目的が異なる
デザインリサーチをマーケティングリサーチと区別するために、「デザインリサーチの目的は開発のため」とされる場合がありますが、これも補足をせねばなりません。なぜならば、ビジネスを前提とした開発において市場を無視することは非常にまれであり、その意味でマーケティングリサーチもまた「開発のため」に用いられるからです。上記の表では、暫定的にはありますがマーケティングリサーチを「特に現状についての情報を収集する」。デザインリサーチを「現在の情報を起点に、(未来を含む)顕在化されていない情報へと読み解きを行う」と整理しています。
開発においては、現時点の情報ももちろん重要ですが、“未だないもの“をリリースするためには、やはり、”未だ気が付かれていない課題“や、”未だ現実になっていない状況“を先読みして動くことが大切であるからです(ただしこれもマーケティングリサーチにおいて行われてないという意味ではありません)。
違い2 分析の視点が異なる
さらに、分析の視点も異なるべきであると私たちは考えています。
ビジネスにおいては、「次にどうするべきか?」を知ることが調査の最大の目的のひとつだといえます
このため、私たちはデータの正確な読み解きから一歩踏み込んで、当事者を外からの視点て洞察し、そのほかの膨大な背景情報とも照らし合わせながら、「なぜ?」「どうするべきか?」までを発見することを是としています(表中「インサイトを”洞察”し、新たな課題を発見する」)。
これらの読み解きは、従来のリサーチにおいては“越権的”であるとみなされる場合もあります。しかし、この“洞察”とそれを起点とする「新たな問い」の発見が、広義のデザイン活動の最も重要な部分であると、私たちは心得ます。ビジネスを加速するデザインリサーチであるためには、分析においても事実の羅列にとどまらず、ひとを中心に捉えたうえで「問い」を発見し、「次に何をするべきか」につなげることが、外すことのできない要件であると考えます。
そしてこの“洞察”は、世界のトレンドや価値観の変化、社会の変化、文化を踏まえたうえで、対象への深い共感をもって行う必要があります(トリニティではこれまで、グローバルトレンドを定点観測し続けており、また国内外との有識者との対話を通して、洞察力を磨いています)。
ビジネスに役立つデザインリサーチとは?
活用のポイント1 目的に合わせ、マーケティングリサーチ・デザインリサーチの双方で補い合う
さて、デザインリサーチとマーケティングリサーチには違いもありますが、ビジネスの段階や目的に合わせ双方で互いに補い合うことが、価値のある結果を導くことにつながります。
私たちは、デザインコンサルティングとして、ビジネスの設計を含む“広義のデザイン”に役立つ調査手法を用います。このため便宜上、リサーチを“デザインリサーチ”として推進していますが、その実、双方の“いいとこどり”をして調査設計、実行しています。
活用のポイント2 リサーチ結果を共有・活用できる状態にする
また、ビジネスの現場においては立場の異なる関係者を巻き込みながら協力を得てプロジェクトを推進することが不可欠です。このため、リサーチした結果を関係者間がストレスなく共有できることを目的とし、グラフなどの統計図表に加え、図解やイメージフォトまでを用い、直感的に理解できるレポートを作成、理解のためのプレゼンテーションを行うまでが役割であると考え、実行しています。
活用のポイント3 リサーチはカテゴリではなく、スタンスが大切
ビジネスのために必要なものは「デザインリサーチ」というカテゴリではなく、「“ビジネスをデザイン(設計・実行)“するための“リサーチ“」というスタンスです。
あくまでも“ひと”を中心に捉え、事実に基づきながら創造性をもって解釈し、次の一歩を作り出すため、トリニティではデザインリサーチとマーケティングリサーチを掛け合わせ、ビジュアル化までを行う「コンポジット・デザインリサーチ」とでもいうべき、オリジナルの調査を設計、実行しています。
まとめ:ビジネスを”デザイン”(設計・実行)するための”リサーチ”
まとめると、トリニティによる“ビジネスをデザイン(設計・実行)“するための“リサーチ”は、下記のように整理されます。
次回以降の解説記事では、いわゆる“デザインリサーチ”だけにフォーカスせず、
「デザインリサーチ」を、「ビジネスをデザイン(設計・実行)“するための“リサーチ」として解説を行います。
「ビジネスに価値を創出する、”デザインリサーチ”活用ガイド」今後の予定
このシリーズでは、トリニティが実際に行っているデザインリサーチを解説付きでご案内していきます。
※待ちきれないという方は、直接お問い合わせください。
❶新規商品&サービス開発“戦略”のための「業界調査・先行事例・トレンドリサーチ」
B:“強い”事業アイディアを生み出すための先行事例・競合調査 ▼
C:新たなマーケットにビジネス展開するためのマーケット構造調査
D:価値創造のためのブランド調査
❷ひとを深く捉え、共感を呼ぶUX(ユーザ・エクスペリエンス)を創出するユーザーインサイト調査
❸製品・サービスのローンチを確実にするための、プロトタイプ検証調査
※内容は変更になる場合があります。
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ほか、新型コロナで変わる世界の読み解きについてはこちらもご参考になさってください。
文責
中森志穂
トリニティ株式会社 デザインリサーチャー
東京大学 学術専門職員
筑波大学大学院 人間総合科学感性認知脳科学専攻 博士課程 単位取得満期退学(2011年)。
筑波大学在学中に日本学術振興会特別研究員として採用され、感性工学をデザインの側面から研究。
その後グローバル電子機器メーカーにて技術プロモーション全般を担当しつつ、
任意団体にてオープンイノベーションによる新規事業、ソーシャルデザインに関わる。
デザイナーとしても活動し、キッズデザイン賞ほか受賞。
現職では、デザインリサーチ、企画設計およびプロモーション全般を担当。
次の“移動”を創る「人・技術・知恵をつなげる」研究会KITEや、DXDキャンプ(高度デザインDX人材になるための実践プログラム)など学びの場づくりにも取り組んでいる。
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