「ビジネスに価値を創出する、”デザインリサーチ”活用ガイド」第1回では、デザインリサーチが「情報を読み解き、未来をつくるための情報に転化すること特徴があること、そしてさまざまなビジネスの段階に合わせて、種々のリサーチのあることを概説しました。第2回からは、新製品・サービス、あるいは新規ビジネスをはじめるまえに、実施したいデザインリサーチを解説していきます。
第1回はこちら(「デザインリサーチとは何か」)から
新規製品・サービス開発、新規事業開発をはじめるために
ビジネスにおける“戦略”とは、「組織がどこにどのように向かうべきかの意思」であり、すべてのアクションの基盤となるものです。
組織の未来にとって、なすべきこと、あるいはなすべきではないことを決定するためには、調査、分析が必須です。
しかし、PEST分析やSWOT分析で、自社の強みや外部環境をも知るだけでは、顧客起点での開発には至らず、イノベーションを生み出すことはできません。
デザインリサーチは、従来の調査手法では拾いきれない「新たな発見」を主眼に、「ひと」の視点に寄り添いながら深い読み解きを行うことが特徴です。
戦略立案の場面でもやはり同様に、社会の動向、市場や競合の状況、ユーザの動向を洞察する際に、あくまでも「ひと」の視点を重視。
VUCAの時代、多様な価値観をそれに即したサービス重要な今、市場のひとの背景にある「価値観や潜在的欲求、感性や文化・慣習」を捉えることで、何をなすべきかの手がかりをつかみます。
新規商品&サービス開発をはじめるための「トレンドリサーチ・業界調査・先行事例調査」 概要
Type A:バックキャストのための未来予測・市場予測調査
近年活用が進んでいるバックキャスティング思考では、現在の延長で未来を捉えるのではなく、「未来のあるべき姿」から逆算して考えることで、固定観念に縛られない新しいアイディアを発想できます。
また、外部環境の変化を見極め、どのような未来を導くべきかを考えることは、戦略のかなめといえます。
戦略立案でよく用いられている「PEST分析」や「事業環境マップ」は、マクロ環境(外部環境)分析をおこなうマーケティングフレームワークです。PESTとは「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の4つの頭文字を取ったものですが、わたしたちトリニティの「トレンド分析」や「有識者ヒアリング」でのデザインリサーチは、このうち、社会文化的 (S)な環境・市場調査を特に深く掘り下げ、生活者視点での”次の価値観”を把握します。そうして、望ましい未来から逆算するバックキャスト型での事業・製品開発をサポートし、イノベーティブな新規事業、新規製品・サービス開発につなげます。
バックキャストのための未来予測・市場予測調査 デザインリサーチのタイプ
Type A-2 現場の新たな視点や未来の変化を示唆する「有識者調査」▼
Type A-1 「トレンド分析レポート」 とは?
ひと・価値観とマクロな社会変化を読み解き、未来予測の精度をあげる
活用シーン
活用のポイント 価値観の変化を “周期”でとらえ、予測に活かす
世界の価値観も変容し、技術革新が著しい今は、未来を簡単に予測することは困難です。しかし、歴史の流れを紐解き、その変化のベクトルを考察することで、一定の範囲での未来像を把握することは可能です。
このため、トリニティでは、2000年から定点観測・分析しトレンドレポート「クロスオーバー トレンドフォーキャスト」を例年発表。具体的なトレンドとして現れている製品や具象(モノのカタチ)に立脚し、生活者の価値観の変化を大きな「周期」として読み解き、解説しています。
例えば、昨今話題の“レジリエンス”などの、ライフスタイルにも影響をあたえる価値観が、どのように生まれ、変化してきているか、具体的な製品やサービスとしてどう表れているのかーそしてこの先どうなるかーをとらえることで、自社の引き寄せるべき未来をディスカッションし、構想することが可能になります。
トレンド情報は、戦略立案だけでなく、アイディアワークショップや、次世代人材育成の際のインプット資料としても活用されており、様々なシーンで活躍する基礎情報でもあります。
トリニティのトレンドレポートでは、ひとの価値観が早期に表出する「ファッション」、「インテリア」、に加え、自動車、テクノロジーの領域をグローバルに調査。3か国のデザインリサーチャーが収集・分析し価値観の変化傾向をレポートしています。(詳細:クロスオーバートレンドフォーキャスト2020ー価値観トレンド編ー)
実施事例
ほか、トリニティは、日経BP社と共に、長年にわたりトレンドセミナーも展開。トリニティのリサーチャーがミラノサローネやメゾン・エ・オブジェをはじめとする国内外の展示会を取材し、多彩な講師陣と共に次期トレンドを報告しています。
Type A-2 「有識者調査」とは?
深い業界知識にもとづいた、これから起こる変化・あるべき姿までの具体的な情報を得る
活用シーン
活用のポイント 専門的な見地から、俯瞰的な視点と未来をとらえる
有識者調査は、一般ユーザーではわからない専門性、俯瞰的な視点、現場での経験を基に、時系列な事実と振り返り、将来の可能性や課題などが得られるのが特徴です。
また、有識者は常日頃からこれからの業界の未来を考えており、解決すべき課題や、その業界のあるべき姿の議論までも把握していることが常です。彼らの情報提供は、豊富な経験と深い洞察に基づいたものであるため非常に有意義です。
これにより、文化的背景・社会的文脈も含めた深い理解が可能になり、YES/NOあるいは数値のデータだけからでは読み解けない変化の兆しまでをも把握でき、未来を見据えた立案が可能になります。
トリニティでは、国内だけでなく海外有識者の起用を幅広く行い、現場訪問やリモートセッションによって、デプスインタビューやグループインタビューを行います。
実施事例
Type : Aバックキャストのための未来予測・市場予測 まとめ
事業環境がはげしく変化する中、手の届く範囲の状況の延長から未来を予測することは困難です。
しかし、どのような未来が来るかについての兆しは、既に世界のどこかに現れています。
デザインリサーチではこれらの「兆し」を蒐集し、さまざまな情報と重ねることで、未来の可能性を絞り込み、予測します。
そうして予測した未来の環境に、自分たちが導きたい未来を重ねていくことで、業界をリードするビジネスを発想することが可能になります。
バックキャストのための未来予測・市場予測調査 デザインリサーチのタイプ
Type A-2 現場の新たな視点や未来の変化を示唆する「有識者調査」▼
第3回「“強い”事業アイディアを生み出すための先行事例・競合調査編」につづく
*トリニティのコンポジット・デザインリサーチ
「コンポジット」とは、複数の要素を組み合わせたもの。トリニティでは、デザインリサーチ×マーケットリサーチ×ビジュアライズの複合でグローバルにリサーチを推進。“ビジネスをデザイン(設計・実行)“するための“リサーチ”として、コンポジット・デザインリサーチの概念を提唱しています。
ビジネスでは、課題を発見しその解決を行うことが求められます。ここにおいて調査の役割は、「どんな状況で、どのような人が、どんな理由で、どんな行動をしているのか」を捉えること、そこから「ビジネスチャンス」を把握することだといえます。
特にデザインリサーチは、文化や価値観、感情、困りごとなど、あらゆる意味での「質」にかかわる情報を主に取得するものといえ、「未発見のビジネスチャンス」にまでリーチします。しかし、デザインリサーチの中にも様々な手法が存在し、ビジネスの段階や目的・規模によって、使い分けることが必要です。
また、デザインリサーチ手法に加え、「量」で情報を把握するマーケットリサーチを掛け合わせ、さらに有識者による一歩踏み込んだ読み解きを行うことで、数字を眺めるだけでは見えづらい事実をとらえることができます。
そして、読み解きの結果をチームや組織、アライアンス間で共有することは、「何をこれから目指すべきか」の議論のベースを創るうえで欠かせません。トリニティではデザインリサーチとマーケットリサーチを掛け合わせて取得した事実を読み解き、ビジュアル豊かに理解し共感できる資料としてまとめ上げ、「ビジネスの文脈で活用できる資料」の作成を行っています。
ビジネスに価値を創出する、”デザインリサーチ”活用ガイド シリーズ記事一覧
文責
中森志穂
トリニティ株式会社 デザインリサーチャー
東京大学 学術専門職員
筑波大学大学院 人間総合科学感性認知脳科学専攻 博士課程 単位取得満期退学(2011年)。
筑波大学在学中に日本学術振興会特別研究員として採用され、感性工学をデザインの側面から研究。
その後グローバル電子機器メーカーにて技術プロモーション全般を担当しつつ、
任意団体にてオープンイノベーションによる新規事業、ソーシャルデザインに関わる。
デザイナーとしても活動し、キッズデザイン賞ほか受賞。
現職では、デザインリサーチ、企画設計およびプロモーション全般を担当。
次の“移動”を創る「人・技術・知恵をつなげる」研究会KITEや、DXDキャンプ(高度デザインDX人材になるための実践プログラム)など学びの場づくりにも取り組んでいる。
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