トリニティ株式会社デザインプロデューサ-として、ライフスタイルトレンド情報の調査・分析を行っている兵頭です。
この記事では、「ライフスタイルトレンド情報、未来予測情報がどのように作られるのか?」という事についてお伝えします。また
“トレンド情報や未来予測とは、どのような情報なのか? その信ぴょう性はあるのか?”
“VUCAの時代と言われる不確実な時代において、そもそも未来予測は可能なのか?”
ということを、よく聞かれますので、その辺も踏まえ、話を進めたいと思います。
未来予測情報とはどんなもの?何のためのものか?
ライフスタイルトレンド情報や未来予測情報は、世界中の様々な機関ー弊社のようなデザインコンサルティング会社の他にも、ビジネスコンサルティング会社、広告代理店、市場調査会社などーにより発行されています。
ではなぜ、これほど多くの企業が作成し、入手しようとしているのでしょうか?
それは、企業が新規事業開発などイノベーションを起こそうと考える時や自社のフィロソフィーを伝えるブランディングを考える際、このトレンド情報や未来予測を活用することが必要だからです。
「デザイン思考」や「デザイン経営」で語られる“人間中心設計”、“未来志向”、“バックキャスティング”などを進める上で、価値観の未来予測情報を活用することが、アイデア創造の質や精度を向上させる一つのアプローチになると思います。
この情報を未来の結果を検証する材料として活用するのではなく、未来を読み解く材料とすることが重要です。
未来予測と言っても、どの情報も未来を予言する予言書ではありません。
未来のありたい姿を創造するときに、それを考えるための視点やマインド、時流を読み解くために手助けとなる情報がライフスタイルトレンド情報や生活者価値観の未来予測情報なのです。
つまりこれら未来予測情報には、答えや正解が書いてある訳ではないのです。
どのような未来であってほしいかを描く時に、その方向を読み解くための材料が提示されています。つまり、未来予測とは、未来を創り出す人々の思索の助けとなる道具であるといえます。
トリニティでは、年1回「クロスオーバートレンドフォーキャスト」という、約2年先の生活者価値観に関する未来予測情報を発信しています。これは2000年から時代の潮流を映し出す様々な分野の情報を集め、読み解き、未来のライフスタイル動向、人々の価値観の潮流を分析しながら、人々の価値観の推移を掴むフォーキャストレポートです。
ここからは、弊社発行の「クロスオーバトレンドフォーキャスト」を事例として弊社がどのような考え方で未来の動向を読み解き、導いているのかについて紹介します。
未来予測の方法1:価値観の大きな変化をグローバルに捉える
情報化社会が広がる現代において、(情報から遮断され、独自の進化を遂げている民族にはもしかすると当てはまらないかもしれませんが、)基本的には人々の意識の根底に流れる価値観が向かう方向は共通します。グローバル規模の大きな価値観の流れに対し、様々な外的要因の一つとして各国や地域の文化や風習、その時代時代の環境の変化が加わり、それぞれ特有のライフスタイルが形成されます。
実際の制作プロセスを、「クロスオーバートレンドフォーキャスト」の実例から紹介します。
トリニティの未来予測情報は日本国内だけの価値観動向を描くのではなく、グローバルな動向としてまとめています。
プロセスは、弊社(日本)を中心に、欧州(イタリア)、アメリカ(ニューヨーク)、中国(上海)のパートナーと半年ほどの情報収集とともに議論を重ね、制作するというものです。発行前年の9月以降くらいから最新の価値観動向を読み解く事例を収集し、毎年3月~4月に各拠点30程度情報を持ち寄り、編集会議でセッションしながら、グローバルな価値観の変化仮説を抽出します。
そのファーストステップとなる情報は、世界で実施される展示会への訪問から収集します。
テクノロジーの展示会「CES」やインテリアデザイン展「ミラノサローネ」、NY、ミラノ、パリ、ロンドンで行われる
ファッションコレクションや素材展「プルミエールビジョン」、世界で行われるモーターショーなど、時代の潮流を映し出す様々な分野の先進情報が中心です。
(今年の様に展示会自体が開催されない時は、各社発表のプレスリリースなどを中心に情報を収集します。)
これらの展示会等の情報から2年先の未来の生活者が何を期待しているのか、どのような生活への意識でいるのかを読み解き、価値観変化の仮説をたてます。
その後、仮説に基づき、各拠点で追加事例収集をし、検証。
同時にその仮説が兆しとして表れている最新のデザイン事例(サービス事例含む)を各拠点20程度収集しながら、情報の付加を行います。収集した情報をベースに各拠点のパートナーとディスカッションを行い、最終レポートにまとめ上げ、制作します。
情報ソースは、展示会のようなグローバルに向け発信しているものと、各地域に広がるローカルなものとの双方を集め、共通部分を抽出することが大切です。
グローバルに発信されていることと、例えば中国で展開されている最新サービスが、(その形やあり方は全く違うものであっても、)それが見据える生活者の意識やマインドは共通する部分があるということは、事例ベースでたくさんあります。
ここで注意しなければいけないのは、似たようなサービスがたくさん展開されている、マスマーケットで流行しているといった量で捉えるのではなく、共通する意識がどこにあるのかということに注目し、情報を分析しなければなりません。
未来予測の方法2:カテゴリを横断し、“クロスオーバー“するポイント
情報収集のもう一つ大切な要素は「領域横断(クロスオーバー)」です。
トリニティでは、目に見える形には、人々の潜在欲求が表れていると位置づけています。そのため、実際の市場に出ているビジネス形態、製品、サービス、出来事などの多くのビジュアル事例を紹介しつつ価値観を分析しています。
また、一つの領域に現れた事象は、単なるその時だけの特徴かもしれませんが、複数の領域において、同時に同じような傾向がみられる時、それは時代の価値観の変化を反映していると考えるのが妥当です。
トリニティのクロスオーバートレンドレポートでは、工業製品&サービス、建築・インテリア、素材・ファッションといった、人の生活を取り巻く異なる3つのカテゴリの情報を収集し、その領域を横断し共通して見られるデザイン事例(表面的なデザインに加え、商品・サービスのコンセプトなど)を抽出します。
領域横断し見られる傾向から、その背景に流れる人の意識やマインドを読み解き、人々の価値観の潮流を分析します。
このようにグローバルとローカルという視点、工業製品&サービス、建築・インテリア、素材・ファッション3領域の視点、といった2軸の視点で分析をしながら、次代の価値観の潮流を描きます。
グローバルの変化を捉えるため、海外の大規模展示会を現地取材
未来予測の方法3:変化を時系列で読み解く
ライフスタイルトレンド情報、価値観の未来予測を分析する際、もう一つ考えなければならない重要な要素があります。
それは、人の意識や気持ちの変化、価値観の潮流を単年ごとに断片的に描くのではなく、時系列でみながら、その変化を捉えることです。
人々の価値観の根底に流れるマインドセット(思考様式)は、大きな時代の流れの中でいくつかあります。
もちろん時代の移り変わりにより、その優先順位や影響の度合いの大きさは入れ替わったりもしますが、おおむねそれほど変化しません。例えば「エコ・エシカル」への意識は2000年以降影響が強くなったマインドセットであったり、その他には「体験価値」「体感刺激」「シンプルさ」「ナチュラル・エフォートレス」「本物志向」「カルチャー」などがあります(他にもいくつかあります)。
それらの組み合わせや強弱を見据えながら、それぞれがどのように変化しているのかを分析します。トリニティが2000年から情報を収集し、毎年分析を重ね発信している理由はそこにあります。
断片的に価値観のトレンドを描くことはあまり意味がありません。
そこには今の流行、今の時勢しか反映されておらず、未来へつながるかどうかは言及することができません。
時系列でみることで、少し先の未来を見据えることができるようになり、環境の変化、技術の変化、人の気持ちの変化、そして、デザインや消費に対する意識の変化を読み解くことがスムーズになるのです。
クロスオーバートレンドでの時系列資料
まとめ:変化の激しい時代において未来予測は可能か?
“変化の激しい時代において未来予測は可能かどうか”という問いに対しては、それがある特定時期の未来において社会が、あるいは
個別の事象がどのようになっているかという予測であれば、それを予測することは不可能でしょう。
例えば2030年「空飛ぶクルマ」は普及しているかどうかを言い当てることはできません。それは技術動向だけで予測できるものではなく、地域差や法的環境、経済動向など外部要因も影響するからです。しかし、先ほど制作におけるポイントでもお伝えしたように、人々の価値観の潮流がどのような方向に向かっているかは、時系列でみながら様々な情報を多角的に分析することで可能です。
また、そもそも未来予測は、予測された時点で、未来に影響を及ぼしてしまうという特徴があります。さまざまな側面から、まだ表れていない未来の姿を予測し、それをもとに違う未来が作られていくからです。
「クロスオーバートレンドフォーキャスト」のような、次代の価値観の潮流を予測し、方向性を示すライフスタイルトレンド情報、価値観の未来予測は、“社会が求めるありたい未来”を創造する際、その未来を受容する生活者を理解するために道しるべとなる情報です。
「デザイン思考」や「デザイン経営」で語られる“人間中心設計”、“未来志向”、“バックキャスティング”などはビジネスを進めるうえで、必須のプロセスともなりつつあります。しかし、未来は現在のわたしたちの行動によって変化しうるものでもあります。そのため、「確実な未来を予測する」ということは不可能です。
しかし、可能性をしぼりこみ、未来像の幅を持って想定することは可能です。
「起こりそうな未来」から「起こりうる未来」までの幅の中から、自分たちが関与することで、より望ましい未来にしていくという主体性を持ったアプローチが、読み解きやバックキャスティングを行う際のかなめです。
未来の結果を「検証」する材料として活用するのではなく、「未来を読み解き、さらにその先を構築する材料」として、主体的にトレンドを読み解くことが重要です。
関連資料案内
トリニティでは、未来予測の基礎情報として、現在3タイプのレポートを発行しています。
トリニティのレポートは、主体的に未来を展開するための活動であるワークショップでの活用にも多く利用されています。
サンプルをダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください。
■クロスオーバートレンドフォーキャスト2020 「デザイントレンド編 / 価値観トレンド編」
・時代の潮流を映す3領域の情報を2000年から定点観測・分析。人々の価値観の動向を分析し、約2年先の変化の方向性を示す2種類のトレンドレポート。
・2020年度版は、2つのスペシャルレポートも追加。「10年おきに見られる長期トレンドの大きな変化=うねり」、「新型コロナウイルスの影響による長期的な視点で社会の変化を促すファクター」を掲載。
★こんな方に役立つレポートです。
【価値観トレンド編】
• 企画部門、商品開発・サービス開発部門、マーケティング部門
• これから起こる人々の暮らしや価値観の変化を捉えたい
• 価値観トレンドに合わせた企画やサービス設計のアイデアヒントが欲しい
【デザイントレンド編】
• デザイン部門、クリエイティブ部門
• これから起こる人々の暮らしや価値観の変化を捉えたい
• 価値観トレンドに合わせたCMFでの表現、フォルムのデザインヒントが欲しい
■テックトレンドレポート2020
・複数領域のテクノロジーを俯瞰的に読み解き、「ひと」視点の未来を読み解く。
★こんな方に役立つレポートです。
• 技術部門、開発部門において新規事業開発などに携わる方
• 商品企画、マーケティング部門、デザイン部門において技術トレンドを踏まえ、仕事を進める必要性を感じる方
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