【現地レポ】ミラノサローネ2018 〜デザインリサーチャーの視点から〜
公開:2018年4月24日 更新:2018年4月24日
今年も世界から多くの来場者を迎え、ミラノサローネが開催された。
フィエラ会場も、街中での展示フォーリサローネも本当にたくさんの人々が行き交っていた。
天気にも恵まれ、歩くと汗ばむほどあたたかな中の1週間であった。
今回もミラノサローネ全体で語られたメッセージを受け、いくつかの展示を紹介しながら、今年の様子をお伝えしようと思う。
今年のHERMESも昨年に続き、安定のよい展示で、お気に入りの一つである。
手仕事の”温かみ”と”完璧さ”のバランスが前回にも増して見事だった。
貼られているタイルが不揃いながら温もりがあり、並べられているコレクションは隙のない完璧な仕上げ。
ヒトの感覚や直感が大切な時代を反映し、エルメスの作品を通して生活の質の向上を想像させる展示であった。
街中で道路に落書きアートをしているところにも遭遇!描いている様も、ウェアも可愛く、エルメスらしさの幅を広げていた。
今年のミラノサローネにはGoogleがCESに続き出展していた。
オランダ人デザイナーKiki van Eijkのアートワークをトレンドセッターの重鎮Li Edelkoortがキュレーション。
Googleが生活のワンシーンに入り込み、ライフスタイルに寄り添っているというメッセージを強く感じた。
起用といい、テクノロジーの結果を全く見せないところといい、Googleは上手だなぁと感じた展示であった。
次に紹介するのは、北欧家具ブランドHAYと日本にも上陸したシェアオフィスのWeWorkがクレリチ宮殿でのインスタレーションである。
クレリチ一族が生活していた優雅な空間にHAYの北欧らしい佇まいの家具が置かれ、WeWorkとのコラボでクリエイティブなオフィス空間も広げられていた。
豪華な佇まいと北欧のサスティナブルな家具が違和感あるはずなのに、うまくまとまっていて、毎日の生活の質を高めながら、日常とその中にある仕事の両環境をバランスよく見せていた。
Superstudioでは、nendo x DAIKINが展示。
入場を制限しながら5つのブロックをゆっくり観て周るという見せ方は、展示の内容を感じ、理解するにはとても良かった。(長蛇の列でなかなか入れないという側面はあったものの…)
DAIKINの特殊な素材や技術をnendoがデザインの力で生活に落とし込むという展示で、どれもなるほどという面白さがあった。実際に触れられるモノが少なかったことは残念だった。
もう一歩、生活の中で何をもたらすのかを語る事ができたら、更に良かったかなとも思った。
また「空気のデザイン」も折角DAIKINなので見せてもらいたかった。次回に期待。
AGC Asahi Glassは、ガラスを使ったインスタレーションであったが、ここ数年のAGCの展示の中で最も良かったと感じた。
音が鳴るガラスを並べ、その前に立つといろいろな音が聞こえるというものだった。
視覚的美しさだけでなく、聴覚をも刺激する仕掛けは楽しく、更にこれが生活に入り込むことを期待させる内容であった。
フィエラ会場でもフォーリサローネでも、今年はとてもヒトに寄り添う、ヒトの感覚、直感、本能を大切にするというメッセージを感じる展示が多かった。
その前提としてテクノロジーのデジタルレイヤーが生活の見える面から消え、溶け込むことで、より一層人間の感覚が大切になるのだと感じる。
また既成概念を超える意外性も目についた。
見た目と触感にギャップがあったり、違和感ある組合せを普通にしていたり。
今年のサローネは特にインタラクティブな体験や直感的に感じることが必要な展示が多く、
その空気感やフィジカルな感覚は実際に行かなければ経験できない内容であった。
テクノロジーに支配されるとヒトの本能や直感は得てして退化する。今デジタルレイヤーが生活に溶け込むことで、より一層感覚や本能を研ぎ澄ますことに人々の意識が向いているのではないだろうか。
そんな事を強く感じた今年のミラノサローネであった。
(写真・文責:兵頭)