TIPS by Trinity : デザイン経営とは何か?
顧客価値を可視化し、未来をつくる経営戦略
公開:2025年12月11日 更新:2025年12月11日
デザインを経営に活かすという考え
「デザイン思考」の概念は、近年ビジネス界で広く浸透しました。
人を中心に考え、顕在化していない課題を発見し、解決策を導き出すアプローチは、
既に多くの企業に採り入れられています。
しかし、その先にある「デザイン経営」は、まだ十分に理解されているとは言えません。
経済産業省・特許庁が推進するこの考え方は、デザインを経営資源と位置づけ、
企業の競争力やブランド価値を高めるために活用しようというものです。
けれども「デザインを経営に活かす」と言われても、実際に何をすればいいのかピンと来ない方も
多いのではないでしょうか。もしかしたら、デザイン従事者も実感が湧かないかもしれません。
AppleやIKEAが示す、デザインと経営の融合
デザイン経営のわかりやすい成功例を挙げるとしたら、恐らくAppleやIKEAでしょう。
彼らは製品の美しさや使いやすさだけでなく、企業のビジョンや世界観を
あらゆる顧客接点に一貫して表現し、ブランドを確立しました。
Appleは、かつて業務用ツールとして堅苦しい印象のあったコンピュータを
個人の感性に寄り添うプロダクトに変革しました。
ハードウェアのデザインだけではありません。
操作スキルのレベルを問わず、誰もが直感的に使えるUI/UXを実現したことも大きな特徴です。
さらにOSの開発や製品間のシームレスな連携、店舗体験まで統合し、
Appleというブランドの世界観を「全方位で体現」しました。
象徴的なのが、スティーブ・ジョブズのアイデアを基に設計されたニューヨーク5番街のApple Storeです。
地上階はガラスキューブに覆われたヴォイド空間で、中央のガラスのらせん階段を下ると、
目の前に360°ビューで広がるショップ空間が劇的に現れます。
単なる販売拠点ではなく、ブランドの体験価値を共有し、顧客との「感情的なつながり」を
生み出す場として機能しているのです。
同様に、IKEAも「デモクラティックデザイン(民主的なデザイン)」というコンセプトの下、
組み立て式による低価格化とデザイン性の高さを両立させ、多くの人々のニーズを満たす製品を展開しています。
さらに郊外の大規模店舗では、まるでテーマパークを訪れたかのように回遊式の動線が設計され、
買い物そのものが楽しい体験になる工夫がされています。
カフェスペースで味わえるスウェーデン料理も、IKEAが提供するブランド体験の一部です。
ここにもまた、「製品・価格・体験を一貫させ、理念・世界観を体現するデザイン」が、
経営において重要な役割を果たしていることが表れています。
店舗にて筆者撮影
デザイン思考が開発チームの共通意識になる
Appleのティム・クックCEOは、2015年に開催されたThe Wall Street Journal主催の
技術カンファレンスでこう語りました。
Appleはユーザーに人生におけるあらゆる次元でのシームレスなエクスペリエンスを提供したいと考えています。
また、「仕事」と「ホームライフ」を明確に区別する基準はありません。
良品計画は、日常生活を支える商品開発を使命とし、
近年は地域・住民・生産者を結ぶハブとなる店づくりに力を入れています。
こうした企業に共通するのは、人々や社会を中心に据えた事業開発です。
そしてその根底には、デザインを経営資源と捉え、デザイン思考を全社的に共有している
という事実があると考えます。
一方で現場では、デザイナーとマーケティング、商品企画、エンジニアリングなどの
他部署の人たちとの間に思考のギャップが生じがちです。
異なる言語や価値観がぶつかる中で、デザイナーが孤立することもあるでしょう。
そこで重要になるのが、人や社会を中心に発想する「デザイン思考」です。
これが広がることで、非デザイナーもデザイナーの視点を理解し、共通言語を持つことができます。
さらにデザイナー自身も、単に与えられたものを仕上げるだけでなく、
ビジネスや文化創造といった大きなゴールに向けた視点を持つことが求められます。
この相互理解と共創こそが、イノベーションを生み出す土壌となるのです。
それはチームの「ウェルビーイング」にもつながります。
人と人との関係性が良好で目的を共有できるチームは、仕事に対するエンゲージメントが高まり、
結果的に顧客や社会により良い価値を提供できるのです。
理論だけではなく「感性」を磨くことも大事
デザイン思考が広く浸透したことで、「ユーザーや社会の視点から課題を見出す力」が
デザインの一部として認識されるようになりました。
今やデザインは、単に見た目の美しさや使いやすさを追求するだけでなく、
仕組みづくりや体験価値の創造、さらにはビジネス戦略にまで範囲を広げています。
これが、昨今よく耳にする「広義のデザイン」です。
デザイン経営が対象とするデザインも、まさにこの領域を指しています。
一方で、「広義のデザイン」の重要性が語られる中で、製品の意匠や使い勝手といった
「狭義のデザイン」が軽視されがちな傾向も見られます。
しかし実際には、ユーザーが製品やサービスを直感的に判断するポイントは、その見た目や使用感です。
デザインには、企業が顧客や社会に提供する「価値を可視化する力」が備わっています。
AppleやIKEAの事例が示すように、狭義のデザインと広義のデザインを両輪として動かすことこそが、
デザイン経営において不可欠なのです。
デザイン経営を始動させる!トリニティの伴走支援活動
私たちトリニティ株式会社では、様々な企業や事業主の方々に向け、
こうしたデザイン経営の考え方を実践的に習得し、組織やビジネスの変革につなげる
実践型のプログラムを展開しております。
🔥DXDキャンプ
経済産業省のReスキル講座に認定されている高度デザイン人材育成スクール「DXDキャンプ」では、
業界・業種・職種を超えて参加者が集まり、未来志向の共創プロジェクトを通じて広義のデザインを体得します。
👭こんな方におすすめ
・広義のデザインを身につけ、キャリアやビジネスに活かしたい
・異なる業種や職種、企業文化の人たちと学びを通して交流したい
このプログラムでは、ビジネススキルの習得に留まらず、
豊かな発想力やアウトプットの表現力を育むことにも力を入れています。
その一環として「フィールドワーク」をカリキュラムに組み込みました。
ものづくりの現場を直接訪れ、見聞きし、対話することで感性が刺激され、
インスピレーションの源泉となるからです。
こうした体験は参加者からも大変好評をいただいています。
2026年度のDXDキャンプの新規募集がまもなく始まります。
サマーコースは5月下旬、ウィンターコースは10月末に開講予定です。
2026年度のテーマは、「デザインを経営・事業に活かす実践知の獲得」。
AI やサステナビリティなど、急速に変化する社会・産業構造を背景に、
参加者が自らの組織・領域において変化を起こす力を育み、
理論にとどまらず現場で活用できる“再現性ある実践” を目指します。
✋Trinity: Hands-on learning
Trinity: Hands-on learningでは、実際のビジネス課題に取り組み、
「デザイン思考」を現場で即活用できるスキルにまで落とし込みます。
実例を挙げさせていただくと、
大手ICTインフラ企業では、ミドルマネージャーを対象に
「未来のデジタル社会を創るワークショップ」を実施。
会社の未来を「主体性」を持って描き、
その実現に向けて社内ネットワークを構築するプロセスを通じて、
経営視点と共創力を育成しました。
大手食品メーカーでは、新規加工食品のアイデア創造に挑戦。
フィールドワークとメンタリングを組み合わせて理論と実践のギャップを埋め、
上層部を巻き込んだコンペ形式で成果を評価。
現場に即したアウトプットを生み出しました。
大手自動車部品メーカーや電機機器メーカーでは、自社技術をリフレーミングし、
デザインリサーチと他分野の専門家とのワークショップを通じて、
新規事業開発の可能性を探りました。
これらのプログラムは、単なる知識習得に留まらず、
現場で即活用できる実践力を育み、事業や組織の成果へとつなげています。
🏫デザインビジネス・スクール
富山県総合デザインセンターが主導する「とやまデザインビジネス・スクール」では、
地元企業の経営層に向けてデザイン経営の実践方法を提供し、企業文化の変革を支援する
同センターの活動をサポートさせていただきました。
このプログラムの特徴は、単なる経営知識のインプットではなく、
未来から逆算して今やるべきことを描く実践的アプローチにあります。
参加者は、自社の強みや現状のアセットに囚われるのではなく、
・自分たちはどう在りたいのか
・社会にどんな価値を提供するのか
といった視点から未来を構想します。
そこからバックキャスティングの手法で、現在の経営や事業に直結するアクションを具体化しました。
近年、リクルートの「圧倒的当事者意識」が注目されていますが、
Trinity: Hands-on Learningのプログラムでも、その姿勢を育むことを重視しています。
アイデア創出の前段階に「自分たちの未来を構想する」ワークを組み込むことで、
一般的なデザイン思考が「目の前の顧客の困りごとや潜在欲求を掴む」ことに留まりがちな点を補い、
参加者一人一人が主体的に関与できる設計となっています。
その結果、参加者は自分事として未来を描き、新たな事業や組織変革へとつながる
具体的なアクションを生み出せるのです。
持続可能な成長を支える「デザイン経営」の力
デザイン経営は、一部の先進企業だけの特別な取り組みではありません。
B2C(Business to Consumer)企業だけでなく、B2B(Business to Business)企業にとっても
ブランド力向上の要となるものです。
近年ではB2B企業の広告や情報発信が増え、これまで業界紙など専門メディアでしか目にすることの
なかった活動が、多くの人々にとって身近な存在になりつつあります。
人や社会の視点から課題を解決し、その価値を可視化して伝えるデザインの力は、
顧客が個人であっても法人であっても有効なのです。
一方で、働き方や市場ニーズを大きく変えるAIの進化、環境問題への対応の急務、
地政学リスク、海外競合の台頭など、私たちは先行き不透明な外部環境に取り囲まれています。
こうした時代に、個別対応や場当たり的な動きだけでは、組織や事業の持続可能性を確保することはできません。
組織が一枚岩となり、ブランドを確固たるものにするための足固めが求められます。
その鍵を握るのが「デザイン経営」です。
社内の意識を統一し、市場や社会に届ける価値を明確に示すために、デザイン経営の実践が欠かせません。
私たちトリニティ株式会社は、このデザイン経営の普及に努め、企業ごとの状況やニーズに応じた方策を共に考え、
実践に向けた伴走支援を行っています。
貴社に合った『デザイン経営』の実践方法を一緒に考えてみませんか。
是非ご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
文:トリニティ株式会社・篠﨑美絵
この記事をお読みになりご関心をお持ちの方へ。
トリニティでは、組織でデザイン経営を実践するための実用的なプログラムをご提供しています。
ご興味のある企業・団体の方は、ぜひお問い合わせフォームよりご相談ください。
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