Viva Technology 2025が示した“技術の意味”の再構築
公開:2025年06月24日 更新:2025年06月24日
VivaTech 2025の概要
2025年6月11日〜14日、フランス・パリの「Paris Expo Porte de Versailles」で開催されたViva Technology 2025。今年で第9回目の開催となったこのイベントは、欧州最大級のテクノロジー&スタートアップの祭典として、年々その規模と影響力を増しています。
今回は、私自身にとって初めてのVivaTech視察となりました。一方で、北米で開催される世界最大級の家電/テクノロジー展であるCESには過去10年毎年現地取材を重ねており、比較視点をもって臨んだ本イベントは、新鮮かつ多角的な発見に満ちていました。
会期中は来場者数18万人(過去最多)、出展企業数3,500社超、スタートアップ14,000社以上という圧倒的スケールで実施され、AI、ヘルステック、気候テックを中心としたグローバルなイノベーションが集結しました。
フランス・パリでの開催背景や熱気など
今回のVivaTechは、ポスト・パリ五輪(2024)という都市変革の節目に実施され、再開発・サステナブル都市への関心が高まる中での開催でした。会場は生成AIやディープテックに対する熱気で満ち、同時期に開催されたNVIDIA GTC Europeとの連動もあり、パリが“AI首都”としての存在感を一気に増している印象を受けました。
オープニングではマクロン大統領も登壇し、欧州独自のAI主権確立に向けた構想や、NVIDIA・Mistral AIとの協業について語るなど、国家戦略としてのテクノロジー活用が強調されたのも象徴的でした。
CESとの共通点と相違点
CESとの共通点
今年のVivaTechとCESには、いくつかの共通する傾向が見られました。まず、モビリティ分野や大型ブースを展開する企業の出展が減少し、プロダクトそのものの派手さや完成度を競う展示から、「社会的文脈」や「体験価値」に軸足を移そうとする動きが双方に表れ始めています。とはいえ、この流れはまだ移行期にあり、特にCESでは依然としてプロダクトの完成度や話題性が重視されている場面も多く見受けられました。
また、生成AIは両イベントで中心的なテーマとなっており、出展の前提条件のような扱いになっていました。ただし多くのAI活用は、製品への実装というよりは未来像やコンセプト提示にとどまっている印象も共通しています。
さらに、NVIDIAの存在感も両イベントを通して際立っており、AI時代のインフラ企業としての戦略的なポジションを強く印象づけていました。
Viva Techならではの特徴と魅力:問いの立て方
VivaTechは「欧州版CES」とも呼ばれますが、本質的には「問いの立て方」がまったく異なる印象でした。CESは技術志向で“完成度の高いプロダクト”や“話題性のあるガジェット”の展示が中心ですが、VivaTechは社会課題や文化的価値に根ざした技術の使い方を強く意識しています。
たとえば、LVMHは傘下のブランドを通じてAIやバイオ素材、循環型プロダクト開発などを活用し、クラフツマンシップとテクノロジーの融合による未来のラグジュアリー像を静かに提示していました。またL’Oréalは、老化因子解析や診断デバイス、AIチャットによる美容アシスタント、さらにはAI制御型の垂直農業などを通して、美と健康の未来を多面的に描き出しており、『技術をどう使うか』というだけでなく、『それによって人間や社会をどうアップデートするか』という姿勢が一貫して感じられました。
このようなパーパスドリブンな展示・対話の濃度は、VivaTechならではの魅力であり、CESとは明確に異なる文化的基盤を持ったイベントと言えます。
注目のセッションや出展エリア所感
NVIDIA Jensen Huang CEO登壇セッション
VivaTech初日、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏は基調講演で登壇し、「AIは製品ではなく、インフラであり文化である」と述べ、AIが社会や価値観に深く関わる存在になったことを強調しました。
さらにマクロン大統領、Mistral AIのCEOとのクロストークでも登壇し、欧州におけるAI主権や「ヨーロッパモデル」の必要性について議論。Huang氏は「your data, your culture, your history belongs to you」という言葉を通じて、AIが文化的主権の基盤にもなるという立場を明確に示しました。
LVMHの思想を伝える空間展示
LVMHの展示は、全体としてブランドステートメントを端的に伝える構成でした。
傘下のブランドのいくつかでは、AIのほか、バイオ素材や循環型プロダクト開発に関連する展示が見られました。たとえばLouis VuittonはRigstersとOKCCと連携し、実物のバッグや靴を3Dスキャンし、生成AIでデジタルアセット化。BulgariはDev4Sideと協業し、シリアル番号で素材や出自を追跡できるジュエリーを紹介しました。
ラグジュアリーの概念そのものが変容しつつある中で、「クラフツマンシップとテクノロジーの融合」を再定義しようとする静かな意志が表現されており、インパクトよりも思想性に重きを置いた展示として印象に残りました。
L’OréalのAI活用とブランド体験
L’Oréalの展示では、AIとスキンケア診断、パーソナライズされた美容アシスタント、サステナブルな原料調達の3領域において多角的な取り組みが紹介されていました。肌老化の要因分析と予防ケアへの転換、Agentic AIとWhatsAppを活用した美容対話体験、AI制御型垂直農業による植物原料の持続可能な育成など、テクノロジーを駆使した美と健康の未来像が明快に提示されており、先端技術と顧客体験、環境意識を結びつけた戦略設計を感じさせるブースでした。
まとめ
Viva Technology 2025は、単なるテクノロジー展示会という枠を超え、「この技術は何のために存在するのか?」という問いがあらゆるブースやセッションに通底していた、印象的なイベントでした。生成AI、サステナビリティ、ウェルビーイングといったテーマの背景には、欧州的な文脈、すなわち社会的意義・文化的連続性・人間中心の視座が一貫して存在していました。
LVMHやL’Oréalといったグローバルブランドは、AIやバイオ、垂直農業などの先端技術を、単なるツールとしてではなく、未来の「意味」や「関係性」を描くためのメディアとして活用していたことが非常に印象的でした。また、Jensen Huang氏の言葉に見られるように、AIは「製品」ではなく「文化」であり、社会そのものの基盤として再定義されつつあるという認識が、イベント全体に深く刻まれていたように感じます。
このような体験を通じて、いま最も重要なのは「問いを立てられる力」であり、それこそがこれからの技術や企業の未来を方向づける鍵になると強く感じました。
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