最近エンジニアの方々からデザイン思考に関するプレゼンテーションや
ワークショップを依頼される事が増えてきています。
聞けば「特に最近、クライアントから明確な要件定義が出てこないので、
何をすれば良いかわかりにくい。要件定義ができるチカラを身に着けたい」とのこと。
まつもとゆきひろ氏(世界で使われるプログラミング言語「Ruby」の生みの親)が、何かのインタビュー記事で「技術だけで生きるというのは幻想である。」というコメントを残していましたが、如何にエンジニアの技術力が高くとも、何の為にそのチカラを使うのか~が明確化できなければ宝の持ち腐れになってしまいます。
課題自体を”発見”するチカラ
デザイン思考の大きな要素である「課題自体を”発見”するチカラ」は
そんなエンジニアの方のチカラになれると思います。
市場にはあり過ぎて選べない程・モノやサービスが溢れている今の時代。
”これあったらいいのに~”と思う以上の(ある意味こんな特徴必要なの?という位の)
ものが既に商品棚にあります。
そんな状況で更に求められる価値は大変分かりにくい。
つまり、“解決すべき課題”を発見するチカラの重要性が高まってきています。
更に、、テクノロジーの発展により、
課題発見(=要件定義)さえできれば、その解決コストはどんどん安価になっていきます。
仕様書通りにコーディングするだけの仕事、要件定義されているものを成し遂げるだけの
仕事は、どんどん人工知能に置き換わっていきます。
その兆候は様々な業界で起きています。
音楽業界では、「作成したい音楽ジャンル」と「曲の長さ」を指定すれば、
AIがオリジナル曲を作曲してくれるサービス” Amper Music”がサービス化されています。
弁護士業界では、変化の速い現実と法律との乖離(法律的な余白部分)から
どう課題を見出し、解釈するかが法律家の価値となってきています。
業界に囚われず”課題発見力”の価値が向上してきている中、
次世代を生き抜くエンジニアも、これまで培ってきた”課題を解決するチカラ”だけでなく、
“課題自体を発見するチカラ(=デザイン思考力)”もつけていくことが必須です。
デザイン思考に付きまとう「曖昧さ」
しかし、、デザイン思考がこれだけ話題になり、様々な業界で導入が進む中でも、
なかなかエンジニアの方にとってハードルが高いのはなぜでしょうか?
私が思うに、、デザイン思考に付きまとう「曖昧さ」が、
ゼロイチの世界に慣れているエンジニアの方には大変気持ちの悪い
ものであるからだと思います。
デザイン思考は「デザイナーの思考回路を体系化したもの」とも言えます。
デザイナーの思考回路とは、私自身がデザイナーだった経験も踏まえて振り返ると
以下のような特徴があります。
1. 唯一解ではなく最適解
そもそも数値的に測る事ができる”唯一解”が存在しない世界。
自分の得意な方法や主観を活かしながら、人の心に刺さる”最適解”を模索する。
2. 具現化しながら考える
頭で考えた事が必ずしも意図する通りに伝わるとは限らない。
面白いと思ったアイデアでも具現化するとつまらない事も。
具現化する事で客観的に検証しながらまた考える事を繰り返す。
3. 改善を重ねて洗練させる
デザイン評価は”揺れ動く人の心”に委ねられるゆえ、一発で”刺さるモノ”
を創る事は困難。常にターゲットの心に寄り添い、多くの失敗や大量のボツ案
と共に”刺さり方”の可能性を模索しながら改善を重ねてアイデアを洗練させる。
つまり大変属人的且つ曖昧さが大きく伴う領域です。
エンジニアの方にとっては、仕事においてその曖昧さを許容する事に対して、
アタマでは必要とわかっていたとしても、ココロが受け付けない。
このココロのハードルを如何に超えるか、その為には
“課題発見”から行うのが次世代のエンジニア!と自ら定義し腹を決め、
自分自身の心と身体をフルに使って泥臭く模索することです。
(トリニティではここにフォーカスして、デザイン思考マラソンという
研修プログラムを毎年行っています。)
是非エンジニアの拡張スキルとして、
デザイン思考力をアタマとカラダ全体で
取り入れていって頂きたいと切に思います。
文責
山口崇
トリニティ株式会社 取締役 / デザインプロデューサー
Adaptive Insight Academy デザイン思考 講師
グラフィックデザインを学んだ後、
メーカーのデザイナー、ブランドコンサルティング会社の戦略プランナーを経て、
現在はトリニティ株式会社にてデザインコンサルティング、デザイン&イノベーション
ワークショップの企画・実施・ファシリテーションを行う。
アダプティブインサイトアカデミーデザイン思考講師も兼任。