渋谷キャスト・オープニングイベント 〜共創は新たなるステージへ〜
公開:2017年5月29日 更新:2017年5月29日
去る4/29日、渋谷で新たな商業施設がオープンした。その名も「渋谷キャスト(SHIBUYA CAST.)」オープン2日目のイベントに参加してきたので、ここに簡単に報告をしたいと思う。
大型連休の初日は温暖な快晴から一点、夕方にもなると気温もぐっと下がり、突風吹き荒れる中でのイベントとなった。
冒頭、国内・海外を問わずコワーキングスペースにおける草分け的存在であり、今回の渋谷キャスト誕生の中心的役割を担った、シェアオフィスco-lab運営の春蒔プロジェクト代表の田中氏の挨拶からイベントは始まった。
この渋谷キャストにも、co-lab SHIBUYA CAST.として入居している。
渋谷キャストは実に6年間の歳月をかけてできた、共創プロセスによる特殊な成り立ちによって誕生した商業施設であり、この日のイベントに登壇したクリエイター達は、いずれもその中核をなすメンバーであるということだった。
その面々には、ノイズアーキテクツ豊田氏やライゾマティクス齋藤氏をはじめ、かつてプロジェクトでご一緒してトリニティとも馴染みのある、錚々たる顔ぶれが並んでいた。
ここで簡単に渋谷キャストの構成に触れておくと、住居・オフィス・商業店舗の3つで構成されたビルとなっている。まず上層階には80戸の賃貸住宅、その下がオフィス階、さらにその下にコワーキングスペースのco-lab 渋谷キャストが入居、そしてその他商業店舗が入るという構成だ。
渋谷キャストの特筆すべき点としては、施設デザインをはじめビルの成り立ち全般に渡り、共創プロセスによる“集合知”を用いた、ということだそうだ。
名称の由来にもなっている”キャスト”の意味は「配役」だが、このビルの建設に関わった多くの人たちやクリエイター、そして正面のキャットストリートを行き交う人々がこの空間で輝く登場人物となるように、という思いが込められているという。
また、“キャット”ストリートの入口に面していることもネーミングには含まれているそうだ。
この敷地には、元々都営住宅が立っていた。その再開発にあたり、東京都は70年定期借地のコンペを実施した。このコンペに際し、名乗りを挙げたのが東急不動産だった。今回の施設設計を従来とは異なるプロセスで進めたい、と考えた彼らがプロジェクトの最初期に声をかけたのが、前述のシェアオフィス、co-labを都内に多数展開する春蒔プロジェクト株式会社だった。既に各所のco-labにて“場”と“クリエイター”を繋いできた実績を持つ春蒔プロジェクトが参画したことで、“大型複合施設を共創でつくる”新たな試みは一気に加速することになる。これまでに彼らが培ってきたネットワークを駆使して、新しい時代の渋谷の街づくりに相応しいクリエイターたちが続々とキャスティングされていった。また、大手設計会社の日本設計もプロジェクトの中核に加わって、大型複合施設の開発としては前代未聞の特殊なプロジェクトチームが結成されていったという。
春蒔プロジェクトは、以降も入居するシェアオフィスのco-lab渋谷キャストだけに留まらず、施設全般の企画・運営として多彩な“キャスト”達の中心的役割を担うこととなった。
個性ある人々が集まり、コラボレーションによってこの場所を作って行きたいという思いのもと、皆で意見をまとめながらプロセスを進めていくその様子は、さながら“1本の映画のよう”だったという。これまでの大型建築はあるひとりの象徴的な建築家が作り上げるものだったが、今回は文字通り、様々な“キャスト”が参加して作りあげた。それも、この規模で実現できたことが大きいのだという。
これはデベロッパーや設計会社にとって、かなり特殊な体験だったという。
そんな思いから、今回のオープニングイベントも、大勢のキャストが集う映画の新作発表会をイメージしたという。登壇者の足元には、このために敷かれたレッドカーペットが垣間見えた。
渋谷キャストという空間が目指したものは、元々都営住宅であったというバックグラウンドも考慮して、多様な居住のあり方を実現することと、この場所を起点とした街づくり。大きな広場を設けて、新しいものに出会ったり、くつろいだりすることができる、歩いて楽しい街の基点となること。
そして創造性を刺激する、クリエイティブな空間であること。人が実際に集まってクリエイティブをできる場所、新しい気づきがある場所。コラボレーションを誘発し、新しいものを生み出していくという“共創の仕掛け”については、計画段階からかなり意識的にとりいれたということだ。
そのコンセプトの興味深さもさることながら、関わったクリエイター達の話も大変、面白かったのでここにさわりを紹介する。
当日のイベントには登壇されなかったが、CMFデザインには玉井美由紀氏が携わっている。
玉井氏も、かつてCMFという概念が国内で今ほど認知されていなかった時代に、トリニティのパートナーとして共にプロジェクトに携わって頂いた、旧知の関係だ。今回、建築にCMFの概念を導入し、「不揃いの調和」と題したデザインコードを導入した。キービジュアルのマテリアルボックスを作成し、CMFをボックスで提案。キーコンセプトとなるビジュアルをもとに建物をつくるというアプローチを行った。
結果、一見バラバラなようでいて、まとまりのあるものが作れたのでは、とのことだ。
ファサードとランドスケープデザインを手掛けたのは、ノイズアーキテクツ豊田氏。
ファサードが動いてるような、変化を感じられる表現を目指したとのこと。渋谷の集う人々の、多様性ある雰囲気を出したいが、物理的にファサードを動かすことは無理、しかも構造上室外機がファサード側にあるという制約の中で、単純な構造の組み合わせを駆使して見る側が動的に動き回ることにより、異なる表情を見せる表現を実現したという。
B1Fの通路部のインスタレーション、及び照明の演出にはライゾマティクス齋藤氏、有國氏。単なるサイネージではない、この場だからこその恒久的な表現を実現できないか? ということで実現したのは、「建築×映像×音像」を目指した壁面サイネージによる作品で、a + xyzという意味が込められた“axyz”。
27台のスピーカーを設置。見る視点で像は変わり、常に変化し続ける三次元空間上の世界を映像と音で表現。すべてのスペース、ファサードがアーティストのキャンパスとして使われる、新しい公共空間での取り組みを目指した。
「そろそろ渋谷の人間が、業界を横断して打ち出していかないと東京が全部同じになりそうで」とライゾマティクス齋藤氏は語る。
株式会社prsmの藤代氏は、全80戸の賃貸住宅部分のうち、13階にあるシェアハウス「コレクティブハウス」に入居する住人代表として登壇。現在、藤代氏は渋谷、逗子、長野県の小布施と3拠点での“多拠点生活”を実践している。この13階コレクティブハウスでは、藤代氏と同じく多拠点生活を行う人たちが集い、ワンルームの部屋を入れ替わり4人で使うなどすることで、19世帯に実に40人が住むという特殊な状況になっているという。その結果、全住人をあわせて100拠点・100職種と呼べるほどの顔ぶれを実現。藤代氏はこのコレクティブハウスのコミュニティ運営の中心的役割を担い、コミュニティ自体も法人組織化するとのことだ。
このコレクティブハウスを手がけたのは成瀬猪熊設計事務所。空間的な特徴として、各戸にキッチンやユニットバスなどの水回りが全部揃っているにも関わらず、共用スペースにはキッチンを備えた「リビングダイニング」を設けた。従来の集合住宅における部屋の「内」と「外」、そして「共用スペース」の概念を覆す、かなり野心的な設計となっているという。
一種流行語化している“共創”という言葉の本質に違わず、設計プロセスから住人の“住まい方”に至るまで、その全てに共創的なプロセスが存在する、そのような空間がかつてこれほどの規模で、果たして存在したことがあっただろうか。
2020年の東京オリンピックを控え、さらなる変貌を遂げようとしている東京。そんな中、そのさらに一歩先を行く“2027年”の完成に向かって進化を続ける街、渋谷から、新しいプロセスによる、渋谷を愛する物たちの手による共創空間が出現したことは大変感慨深いものがある。共創の新しい時代の幕開けは、ここから始まるのかもしれない。
(文責:岡村)
渋谷キャスト(SHIBUYA CAST.)