トリニティ株式会社

体感するデザイン〜TOKYO DESIGN WEEKに寄せて

公開:2016年11月25日 更新:2016年11月25日

11月6日まで、東京神宮外苑にてTOKYO DESIGN WEEK 2016が開催された。

入場料を支払ってすぐの屋外のブースに、早速列を作っているところがあった。
「CHINTAI×AR三兄弟」というもの。実は時間がなくて中を見ていないからレポートできないのだが、「AR」か。という気持ちになった。これに限らず、今回のDESIGN WEEKでは、ロボット、3D、AR…と、デザインの世界でもバズワードとも言うべき言葉が散見されたからだ。

建物内に入ると、目に飛び込んできたのが、3DCGソフトウェアでおなじみ、Autodeskのブース。
ここでのデモ展示は、3Dプリントを活用したシューズなど、3Dを扱う企業に相応しいもの。

単なる技術のデモンストレーションではなく、デザインとして面白いとか、素敵とか、そういった部分にフォーカスして見せてくれて、見る側もより親近感を持って新しい3Dプリント技術に触れることができると思う。

続いてSONYブース。
とは言え、SONYロゴはスミのほうでおとなしめに置かれているだけであり、ここは別ブランドの「Fashion Entertainments」ブースということらしい。いつものSONY以上にスタイリッシュな世界観が展開する中で展示されていたのが、社内ベンチャー活動から誕生した「FES Watch」。

時間の経過に合わせ、パッパッと盤面が変わる!
スマートウォッチより、こちらのほうが余程イノベーティブな技術をスマートに応用してはいまいか。

他のプロダクトに使用してもこの通り。
NTT docomoブースでは、1/1000000(One in a million)と題して、あなただけのスマートフォンが作成できます、という体感型のブース。

列の先頭にある台の前に立つと、
目の前に立体的な像が浮かび上がるのだ。

あとはその、立体的な像を手であれこれこね回すことで自分の好きな形にできる。
形が出来上がったら、好きなカラーリングや柄を選ぶこともできる。
折角なので、やってみた。

…が、思ったとおりには全く造形できず、結果的に極彩色の砕け散った岩石のようなオブジェが誕生してしまった。これが正面の大型液晶モニタに大写ししされた後、アーカイブされるのである。
情けないやらなんやらで、足早にブースを後にした。

SONYにつづいての時計ネタで申し訳ないが、時計店Tic Tac × FOSSILのブース。
展示されているのは、複数台のスマートウォッチ。
見たところ、盤面の表示が切り替えられるところから、機能、充電のスタイルに至るまで、基本的にはApple Watchと同等の機能を備えたもののように見える。
が、デザインはむしろ従来の腕時計に近い。そして、それがとてもうまく融合しているのだ。

また、Apple Watchにはない、本当にささやかだが大切な機能は、手首を動かさなくても常時針と時刻が(うっすらとだが)表示されるということだ。
筆者は発売時しばらく実験的にAppleWatchを装着して過ごしていたが、視線を送ったときに盤面に時刻が表示されていないという、腕時計としては致命的とも言える使いにくさから早々に外してしまった。その点、このシリーズなら問題ないだろう。
そして、腕時計としてもファッショナブルで、かつスマートウォッチならではの盤面の切り替えもおしゃれ。まず身につけたいという気持ちにさせてくれるだけで、余程こちらのほうが優秀なスマートウォッチと言えるかもしれない。

後は、ロボットが大々的にフィーチャーされているのも今回の展示の特徴。

遠目に見れば、本物の鯉が2匹泳いでいるようにしか見えないのだが、近づくと確かにロボットなのである。

こちらはシャープのロボホンだが、声をかけると人間の手を借りることなく、自らの力でなんと立ち上がる!

最近あちらこちらで見かけるようになったPepperだが、かわいいと言うよりもこれだけの数で凝視されると、近い将来人類は人工知能に支配されるに違いない…という考えが頭を過ぎり、ぞっと身震いする気持ちだ。

駆け足で展示を見てきた中で、もう少し地に足のついたネタを。

この小さなプロダクト、その名をbiblle(ビブル)という。
製作元のジョージ・アンド・ショーン合同会社の森山氏より簡単に説明を頂いたが、このプロダクトはアプリと連携して、手元から半径数十メートル以上離れてしまうとスマートフォンが教えてくれる「見守り」のためのタグとアプリで構成されているとのこと。
乳幼児を抱える親御さんや、認知症の家族がいる方にとっては気になるものかと思う。
おそらく同様のコンセプトの製品は他にも色々とあるのではないかと思うのだが、biblleならではの特徴が幾つかあって、一つがデザイン性。

多様なデザインを用意することで、「持たされるもの」から「持ちたいもの」へ、デザインの持つ利点を活かしてネガティブな福祉機器のようなイメージを払拭しているということ。
なんとあのnano-universeでも取扱が始まるというから驚きだ。

また、優れている点としては、他端末とのアプリ間連携が可能なこと。biblleを身につけた人が離れしまったときにお知らせしてくれるだけでなく、biblleアプリをインストールした他の人のスマートフォンを介して、その人が今どこにいるかを教えてくれること。利用者が増えれば増えるほど、利便性が増すわけだ。
三鷹市では去る11月17日、このbiblleを使った「三鷹駅周辺地域見守り体験」という形の実証実験を行ったとのこと。
コンセプトだけでなく、今まさに実用に向けた取り組みが始まっており、今後の展開から目が離せないといったところだ。

さて、ここまで駆け足でTOKYO DESIGN WEEK2016を見てきたが、奇しくも私が会場を訪れた同日、正に私の見ているそのすぐ側で大変悲しい出来事が起こってしまった。
皆さんも周知のことかと思う。
振り返れば、昨今話題になっている3Dプリント、人工知能、仮想現実などのテクノロジーを、理屈は抜きにデザインウィークならではの切り口で見せてくれた点、今回のイベントの意義であったように思う。

その一方、「デザイン」という言葉の定義がいささか曖昧であったり、アートとの混同から、イベントコンセプトの根幹が危うい部分も多数見受けられた。今回の事故は、まさにそうしたいくつもの「曖昧さ」の中から生じてしまったと感じられるだけに、より良い世界を実現していくためにデザインに必要なことについては今一度、考え直す必要があるのではないかと思う。
非常に悲しい思いを胸に会場を後にすることになった次第である。