トリニティ株式会社

6/26 福祉施設を訪問して福祉・介護の「これから」を知る ~福祉×デザイン・アイデアソン出張版報告~

公開:2015年7月23日 更新:2015年7月23日

去る6/26、トリニティ恒例のセミナー企画、福祉×デザイン・アイデアソンの特別企画として、福祉施設訪問を実施した。

これまでの福祉×デザイン・アイデアソンでは毎回、福祉・介護・子育ての現場で活躍する方々をゲストに招き、ご参加頂いた方たちに現場からの生の声をお届けしていたが、今回はゲストに来て頂くのではなく、こちらから直接現場に赴いて「現場のリアル」を見に行こうという趣旨のもと、企画した。

今回、訪問したのは特別養護老人ホーム・アンミッコ。

施設に到着し、一歩足を踏み入れた瞬間、目の前に広がった景色に面食らい、思わずあっと声を出しそうになってしまった。
福祉施設の見学ということで、今回正直言って少なからず緊張したり、気が重い部分があったのだが、実際に足を踏み入れた時、目に飛び込んできたのは鮮やかな色彩であり、圧倒的な開放感、モダンなインテリアデザイン、そして効果的に取り入れられた自然の光…。

これはすごいところに来てしまったのかもしれない。あまりにもポジティブな装いを前に、それが正直なファーストインプレッションだった。

一歩足を踏み入れた瞬間から、開放感ある鮮やかなインテリアに圧倒される

ロビーでは、代表の三浦祐一さんに直接お出迎えして頂いた。
今回、トリニティを中心とした見学のメンバー8名は、研修室に通された。

最初に、スライドが上映された。アニメーションで、次々と文字が表示されていく。
本当はもっとこうしたいな、こうだったらいいのにな。
こういうことは嫌だな。でも…

結局、言葉を飲み込む、我慢をする。そんな、少し悲しい物語。
それは決して発せられることのない、利用者であるお年寄りの人たちの、
叫びにも似た悲しい心の声だった。

それが福祉施設を利用する高齢者の方たちの置かれている現状であるとのことだった。そんな言葉の数々で紡がれたスライドを見た後、三浦さんがおっしゃっていた言葉が印象に残った。
「入居者の方がこういう思いをしない施設を作りたい」
その理想を実現するために、アンミッコは誕生した。

アンミッコについて代表の三浦様より詳細にご紹介頂いた。真剣に聞き入る参加メンバー一同。

先進的な取り組みの数々

ご紹介頂いた内容から、アンミッコは既存の特養ホームにはない、数々の先進的な取り組みをされていることがわかった。

まず、電子カルテの導入。日本国内での電子カルテ普及率は現状3割ほどであり、特に福祉・介護領域での導入は遅れているとのことだが、アンミッコでは積極的に導入している他、館内には無線LAN環境を整えてある。ビッグデータとしての将来の活用を目指し、先行してのデータ収集を行ったりもしているという。

次に建物の意匠設計。冒頭でインテリアの印象について述べたが、外観もマンションのようにモダンで美しく、施設名の看板などは見当たらない。これは「施設」ではなく、「住まい」を目指したから、ということだった。そのために意匠設計はイタリアで学び、現在はホテルや飲食店の設計などを手がける設計事務所に依頼する力の入れよう。
これほどまでに綺麗な施設を作り上げたの理由は、
「入居者にとっての豊かな人生のため」「家族の後ろめたさをなくすため」
「良いスタッフを集めるため」であるという。その目的は、現状でも既にほとんど達成されているのではないか、と感じた。

アンミッコの施設外観。明るくモダンなイメージでまとめられている。

また、入居者にとっての「食」についても、述べておかなくてはならない。
アンミッコでは「ユニバーサルデザインフード」を提供している。これは、咀嚼力の弱いお年寄りを想定した刻み食、ミキサー食ではなく、食べやすくムース状に加工した上で見た目を重視し、おいしく本物に見えるように成形し直し、食欲がわくようにして提供するものだ。

刻み食、ミキサー食のサンプル画像を拝見したが、料理としての原型は全く失われ、これっぽっちも食欲がわかなかった。このような食事が毎日続けば誰だってうんざりするに違いない。食事は、生きていく上で大切な楽しみの一つだ。しかもミキサー食は加工の過程で水分が出て量が増えてしまうため、想定している量を食べきることができなくなってしまう。

その結果、体重が減少することになる。おおよそ体重が1割減ると死亡リスクが大幅に増加するということだ。
しかし、アンミッコが提供するユニバーサルデザインフードならば、本物の料理と見分けがつかないほど、形・彩りを再現しており、これならば食事も楽しくなりそうだ。
この方法で食事を提供しているのは、おそらく全国でここだけということだ。

アンミッコさまから提供された、従来の介護食のサンプル画像より。これらでは食事の楽しみは全く提供されないと感じた。

 

一方、アンミッコが提供する「ユニバーサルデザインフード」。ぱっと見では普通の食事と見分けがつかず、思わずお腹が減ってしまう

サービス業のプロとして・スタッフ教育への取り組み

施設スタッフには「サービス業のプロであれ」、そして最高の「介護人」であれ、と教育している。入居者に対して「やってはいけないサービス」は存在しない。むしろ、あえて”不公平な特別”を推奨しているという。例えば入居者への足湯のサービスは、ある一人のスタッフの提案から始まったものだった。

また、お誕生日にはサプライズでお孫さんを呼ぶなど、感動を与えるサービスを目指しているという。サービス業のプロとして高い意識を持ってもらうために、スタッフには全員名刺を持たせているそうだ。通常の福祉施設では、役職を持たないスタッフまで名刺を持つことはほとんどない。

その高いプロ意識を醸成するため、当然スタッフの教育にも力を入れている。
看護師の教育にならい、介護職版のラダー教育プログラム作っている。
座学、知識、マインドといったところから実技、グループワークにまで段階ごとにステップアップしていき、修了までに6年間を要する、綿密に構成されたものだ。また、研修だけでなく、評価制度も合わせて充実させている。個人評価制度がきちんと導入されているところは、介護の世界ではごく少ないという。

少し意外だったのが、このカリキュラムはあるステップまで到達すれば、外に行っても良いというルールがある点だ。これは、現場の役職のキャパシティが限られているため、リーダーになるためには、外に出ないとなれないこともあるためだ。折角育てた人材が流出してしまうのは損失と受け捉えられるが、ここで育った介護士が外に出て行くことで、アンミッコのクオリティを広く啓蒙し、ひいてはアンミッコの知名度を高めるという、ブランディング的な側面もあると聞き、感嘆させられた。

こうした数々の取り組みに、国内はもとより中国、台湾などからも見学に訪れる人がいるという。福祉施設として、まさに先端にあると言っていいだろう。

施設見学

ひととおりご説明を伺った後、私達は実際に館内を見学させてもらった。
三浦さまのご案内のもと、廊下を進み、2階へ向かう。
途中、空調のダクトが目に入った。館内の温度・湿度はモイストプロセッサー(調湿機)によって快適に保たれており、特に湿度のコントロールによってカビやダニ、ウイルスまでをも防いでいるとのこと。

既存の特養ホームの常識を大きく覆す明るいイメージは、気鋭のデザイン事務所の手によるもの。天井にモイストプロセッサーのダクトが見える。

廊下壁面には写真作品が展示され、温かなな空間づくりに貢献している。

館内を歩いていてつくづく感じたのは、こうした医療・福祉施設につきまとう消毒薬などの、独特の「臭い」がまったく感じられないということだった。

これについては三浦様よりご説明があったが、オムツの交換が大抵の施設では定時交換(決まった時間に取り替えること)で行われているのに対し、随時交換としたり、処分する際は新聞紙にくるんでビニールに入れて処分とすることで、とにかく手間を惜しまないことによって排泄臭を徹底して取り除くということに挑戦しているということだった。

次に、浴室を拝見させてもらった。
お一人の入居者に対して、職員が二人で対応するという。大抵の施設では人員確保の点からこうしたことはほとんどなく、大勢の入居者の方を複数の職員がほとんどバケツリレー方式のような形で入浴させることになってしまっているという。それをとりやめてお一人ずつ個別対応とすることで、入居者の方にはゆっくりとリラックスして入浴してもらえる上、職員と入居者の貴重なコミュニケーションの場ともなったそうだ。

また、浴室壁面は通常、コンクリートとタイルによる作りなのを見なおして、マンションと同じ建材を使用。これによって浴室の寒暖の差がやわらぎ、ヒートショック対策になっているという。

施設ではなく、「住まい」であることを重視した結果、建材にもマンションと同じクオリティを求めた。

居室は多人数部屋ではなく、全て個室タイプ。部屋の間違いを防ぐため、インテリアは3タイプあり、いずれも心地よく穏やかなテイストでまとめられている。

調理場について解説を行う三浦さま

福祉施設で自然光を取り入れた空間づくりは珍しいとのこと。

 

共用スペースは、家庭のリビングを思わせる佇まいにここが施設であることをしばし忘れそうになるほど。

今回の視察を通して実感したことは、超高齢化社会を迎える2025年以降の時代を見据えた介護・福祉現場でのイノベーションを起こすための取り組みは、既に高いレベルで始まっているということだった。

書籍やインターネットによる座学から学ぶことも大事だが、やはり一歩外に出て先端的な取り組みを直接目の当たりにすることで、福祉・介護の問題に対する私達一人一人の意識も変わっていくだろうと思う。
これからの時代をより良くデザインするために、たくさんの可能性の芽をみることができた、今回の福祉×デザイン・アイデアソンでした。

いつかは自分の親族、そして自分自身にも訪れる「死」。
その最期の時を過ごす終の棲家がこのような空間であったならば、
満足感に浸りながら余生を過ごせるのかもしれない。

お忙しいところ時間を割いてご案内してくださったアンミッコ代表の三浦様、職員の皆様方、そしてアイシン精機(株)稲摩様、JVCケンウッド・デザイン(株)鬼頭様、河西工業(株)小西様をはじめご参加頂いた皆様方、本当にどうもありがとうございました。

社会福祉法人 天佑 特別養護老人ホーム アンミッコ
〒359-0002 埼玉県所沢市中富1639-3
TEL:04-2990-2200 FAX:04-2990-2205
http://www.ammicco.or.jp/

最後に入口ロビーにて記念撮影。
とても和やかな雰囲気のもと、最後までリラックスして見学することができた。