トリニティでは普段、さまざまなデザインリサーチを行い、デザインコンサルティングを行っています。
この記事では、株式会社デンソー様(以下敬称略)の事例をもとに、情報過多の時代の「調査」と「アイディア開発」の関係をご説明し、新しいプロセスをご提案します。
デンソー プロジェクトリーダーから
情報はたくさんある、だが製品・サービス・事業アイディアに反映できない…
株式会社デンソーにおいては、グローバルにおける事業開発において、以下の課題を抱えていました。
- 現地の課題やニーズを理解する為の「リサーチ活動」に多大な時間とコストを要する
- リサーチ結果から「インサイト」を洞察する際に、個人の発想力や洞察力に依存してしまう
- 創出する「シナリオ」「ソリューションアイディア」の水準に、人によって大きな差異が生じてしまう
こうした課題に対して、改善の大きな方向性や理想象は定めていましたが、具体的にまず何からどのように取り組んでいけばよいかが悩みの種になっていたところ、リサーチの結果から開発へつなげる実績の豊富なリニティにまでご相談をいただきました。
情報からインサイトを引き出すことでアイディアの質を上げる
実はこの課題は、日本の企業にはひろくみられるものです。
その根本には「情報が情報のままになっており、開発に活用できるまで咀嚼されていない」という問題があります。
図は、情報(ファクト)をそのままリソースとしてアイディアを出す場合と、ファクトを読み解き、仮説を構築したうえでアイディア創出をした場合の比較です。複数の情報を掛け合わせ、背景に共通してみられる問題や人の意識の変化をとらえる(インサイト抽出)ことで、解決すべき課題の解像度を上げることができるようになります。このようにして整理された課題に対してシナリオやアイディアを発想していくことで、ターゲットとなるユーザーが真に求めていることに近づきやすくなります。
たとえば、インドネシアでの肥満問題が社会問題となっているときに課題の設定を
「インドネシアにおいて、ハイカロリーな食生活による肥満解消が必要」にするのか、
「インドネシアにおいて、自己管理の難しさ、自分ではできない人でも無理なく健康的な食生活に改善ができる仕掛けが必要」とするかによって、生まれるアイディアはおのずと異なってきます。インサイトは、インドネシアの人々の複数の事象を、インドネシアの文化をもとに読み解くことで得られます。
プロジェクトの流れ
解決すべき課題の再定義:情報の解釈からアイディア創出までを「メソッド化」
当初は、グローバルなリサーチ活動で収集した情報を「データベース」として整備し、そこから再現性の高い「トレンド」や「兆し」を抽出する為の仕組みやツールを構築することを目指していましたが、デンソー、トリニティとの間での複数回のディスカッションを通して、「データベース」の構築ではなくて、デンソー社内での情報活用を促進する仕組みやフローを構築することを重視する方向に舵を切りました。
具体的には、グローバルにおける情報収集やその解釈、「シナリオ」や「アイディア」の創出に関して、デンソーとトリニティが協働し、ポイントとなる考え方やノウハウを「メソッド」「ツール」に落とし込み、「誰もが」「早く」「一定水準の」ソリューションを発想できるようになるプログラムの開発を行いました。
課題解決へのアプローチ
開発プロセスを改善し、アジャイル型の情報収集~仮説創造、仮説検証プロセスへと切り替えを行いました。
表は、左側が旧プロセス、右側がこのプロジェクトで改善した新プロセスです。新プロセスでは、旧プロセスで行っていた一次情報収集を初期段階では行わず、手元の情報を読み解き、解くべき問題が何かを考えるプロセスへとすぐに進みます。このプロセスは実践からテストの段階をひとつ繰り上げるものであり、最終的により深い一次情報を得ることによりアウトプットの質を向上させます。
実際の手順ではまず、すでに集めている情報を、インサイトを発想しやすい形に整えます(専門のデザインリサーチャーがカード作成を担当、監修)。
このカードを組み合わせて俯瞰することにより、複数の事例に現れている事実から、背景に流れる価値観の変化やインサイトを引き出します。これにより、一次情報を行わずして解決すべき課題のアタリを付けられるようになり、UXシナリオ作成を行った後にはじめて一次情報を行うという手順に変更が可能となります。
ツール開発
プロセスの改善と合わせて、「アイディア」発想レベルの平準化を図る為に、情報の読み解きからアイディア発想に関わるトップデザイナーの暗黙知の形式知化、メソッド・ツール化を実施しました。
ファクトカード例![]() ![]() |
問題発想例![]() ![]() |
シナリオ作成例![]() |
本PJの成果 まとめ
- 既存情報をアイディア創造の為のファクト情報として整理し、今後も広く活用できるファクトカードを作成した
- 情報収集からシナリオ開発までを、社内で短期間で実施する為のツールが整備できた
- ユーザーの体験価値を高める為のサービス開発に組み込めるプログラムとして、メソッド化が出来た
- 本メソッド/ツールを活用して、デザイン系学生向けの「UXシナリオ開発ワークショップ」を実施した
「静岡文化芸術大学」で、学生にビジネスに近い実践的な経験をしていただき、 起業家目線を養い、イノベーティブなデザイン提案に結び付けること」を狙いとして、静岡文化芸術大学、デンソー、トリニティで協業して、本メソッドを活用したワークショップ形式による「サービス発想演習」を実施しました。学生にビジネスに近い実践的な経験をして頂き、起業家目線を養い、イノベーティブなデザイン提案に結び付けること」を狙いとして演習を行いました。 公立大学法人 静岡文化芸術大学 > トピックス一覧 > 教育・研究デザイン 「デザイン学科「領域専門演習(プロダクト)」にて企業と連携した特別講義が行われました」
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