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「答え」のない時代に、若手インハウスデザイナーに求められることとは? 2022年度トピックス若手交流会 レポート

公開:2022年10月12日 更新:2022年10月12日

トリニティが主催となり、国内の企業・メーカーに勤めるデザイナー同士のつながりを生むためのコミュニティとして、2008年から開催している異業種交流勉強会「トピックス」。毎年クリエイティブ業界の旬なトピックをテーマに設定し、レクチャーとワークショップを通して、異業種間の交流と学びが生まれるための場を提供しています。

2022年度は「DE&I(Diversity多様性、Equity公平性&Inclusion包摂性)」をテーマに、11社の企業から約70名の方々(見学含む)にご参加いただきました。本記事では、9月2日に実施した若手デザイナー交流会の様子をご紹介します。

社内の期待を背負う若手デザイナー6名が「トピックス」に参加した理由

(左から)竹中工務店 丸子さん、三菱重工 秋田谷さん、島津製作所 塚本さん、富士通 松井さん、花王 中村さん、花王 松下さん

 

-本日は幅広い方々にご参加いただきありがとうございます。まずはみなさんの自己紹介と、トピックスに参加された経緯を教えてください。

花王 中村
花王の中村と申します。デザイナーとして化粧品や飲料、洗剤、シャンプーなど、幅広い商品のデザインを担当してきました。最近はおもに洗濯洗剤ブランドの「アタック」を担当しています。

 

参加経緯としては、気づいたらスケジュールに入っていた、というのが正直なところです(笑)。ただ、自分なりに理由を考えたんですが、最近、所属部署のロゴを社内で決めることになり、私のデザインが採用されたんですね。なので、上司からは、私がデザイン組織のあり方や、対外的な活動に興味がありそうと思ってもらえているのかなと。個人的にも、異業種の方との交流は好きなので、機会をいただけるのであればぜひ参加したいなと思っていました。

富士通 松井
富士通デザインセンターの松井です。2022年の3月に富士通に入社し、それまで協和キリンという製薬会社で働いていました。現在は、社会課題を解決するためのプロジェクトの戦略企画を担当しています。

 

私は、社外の人とつながれるようなプロジェクトをやりたいと上司に相談していたところ、お勧めされたのがきっかけです。

竹中工務店 丸子
竹中工務店の丸子と申します。設計部に所属し、建物の意匠設計を担当しています。日々の設計行為のなかで、多くの社内外の関係者とコミュニケーションをとりながら調整する業務が多く、クライアントの要望から少しでも良いものつくることを心掛けています。

 

私も部長席から「参加しますか?」と聞かれたのがきっかけでした。トビックスは月に一度の開催なので気軽な気持ちで参加できますし、同世代のデザイナーと集まれる機会を期待していました。建築業界は他の業界のデザイナーと関わる機会が少ない世界だと思うので、みなさんの話を聞いていると視点の違いがあり、勉強になっています。

島津製鉄所 塚本
島津製作所のプロダクトデザイングループに所属している塚本です。普段は医療機器や分析機器などの外装のデザインを担当しています。

 

僕も部長から声をかけてもらったのがきっかけでした。こういう交流会の機会は普段はあまりなくて、デザイナーのつながりといっても大学の同期ぐらいなので、同世代の方とつながれる機会を期待して参加しました。

花王 松下
花王の松下です。商品デザイナーとして、主に「ビオレ」などスキンケアやパーソナルヘルスの商品に関わっています。デザイナーとして手を動かすのはもちろん、マーケッターや研究者と協働して川上のコンセプトや世界観づくりにも関わっています。最近では、アジアの若い世代向けの商品のデザインにも力を入れて取り組んでいます。

 

私の場合、参加が決まったのは突然だったんですけど、以前コクヨさんの「think of things」のオフィスを見学させていただいたことがあって、メーカーの中で独立したデザイン部署を立ち上げるという取り組みがおもしろいなと、他社の事例も知りたいと思っていていたので、今回楽しみに参加させていただきました。

三菱重工 秋田谷
三菱重工の先進デザインセンターに所属している秋田谷です。プロダクトデザインやUIデザイン、新事業・サービスコンセプトのデザインなど、プロジェクトの上流から下流まで幅広い業務に携わっています。

 

中村さんと同じく、気がついたらスケジュールに入れられたのが参加経緯です(笑)。思い当たる理由としてはみなさんと近いのかなと思いますが、僕は業務上さまざまな部署の方を巻き込んで仕事をすることが多いので、他社と交流する立場を期待されているのかなと。

答えのない時代に、デザイナーが求められること

―トピックスにご参加いただいている企業の方には、若手の参加メンバーの選定にあたって「表に出しても恥ずかしくない、将来有望な方にお声がけください」とお話しさせていただきました。みなさんそれぞれ社内での活躍が期待されているからこそ今回参加されていると思いますが、デザイナーとしての社内の期待や役割が変化している感じはありますか?

三菱重工 秋田谷
僕たちより少し上の世代は、かたちの格好よさといったデザインの話していた時代だったと思いますが、そこからデザインの仕事の質が変わってきているのは確かにあると思います。現在は多様な価値を生み出すことにフォーカスされるようになっていて、デザイナーには、イニシアティブをもってプロジェクトを推進する、起爆剤のような役割が求められているのを感じます。

花王 中村
時代の変化が早くなっている中で、花王でも、部署などの垣根を設けずに提案していくことが求められるようになってきました。通常の商品開発では、マーケッターからのオリエンテーションに対してどのようにデザインで答えていくのかが我々の仕事ですが、最近は「こういう商品があってもいいんじゃないか」といった、デザイナーから発信する機会も設けられています。

 

たとえば、デザイン部門の有志で実施しているオンライン展覧会という取り組みがあって、そこではデザインドリブンな発想で、自由に商品を考えて発表しています。実際に、そういった場から生まれたものがきっかけとなって仕事が生まれることもあります。

花王 松下
たしかに、変わってきているのは感じますね。昔は「テレビCMをたくさん打つ・店頭にたくさん並べる=売れる」という感じだったのかなと思いますが、いまはSNSも一般的で、海外の商品なども入ってきたり、競合も多く、ものを売ることが難しい時代の中で、ものを超えた体験や世界観を考える必要性を感じますし、その時にデザイナーに求められる役割は大きくなっているんじゃないかなと。

ものをつくるだけでは限界がある時代になってきていますし、考え方をシフトしていくことが求められているのを感じます。私が担当している「ビオレ」の場合、身体を洗うためのボディソープのブランドとしてだけではなく、たとえば、ブランドのコンセプトを「肌を健やかに保つ」ということまで落とし込んでみることで、「スパをつくってもいいんじゃないか」といった議論が生まれ、体験価値の提供についても考えられるようになります。実際にそういったプロジェクトが増えてきているのを感じますし、その時にデザイナーに求められる役割は大きいんじゃないかなと。

花王 中村
ビジュアライズできることはほかの部署にはないスキルであり、デザイナーの強みなので、単純に商品のデザインに限らない、いろいろな活かし方があるんじゃないかと考えられるようになってきているのは感じますね。

島津製鉄所 塚本
正直に言うと、僕らの場合は世の中のデザインの潮流からは少し遅れていると思います。もちろん案件にも依りますが、社内ではエンジニアの方が立場が強かったり、デザイナーは「綺麗な箱をつくる係」という捉えられ方をしているように感じることもあります。とはいえ、近年ではかなり変わってきている実感はあって、これまでは企画段階からプロジェクトに入ることは少なかったんですが、デザイナーが関わるタイミングが早くなってきたり、すでに設計が決まっていて何も提案できないような仕事は減ってきています

三菱重工 秋田谷
その変化にはどんな理由があるでしょう?

島津製鉄所 塚本
僕らより上の世代の尽力が一番大きいと思います。時には衝突しつつも良い仕事を通して社内の信頼を得てきた世代の方の役職が上がってきたことで、発言力が強まってきているんじゃないかなと。最近ではブランドに関われるようになったり、地道に変化が生まれているのを感じます。

竹中工務店 丸子
建物はその規模から長期的に社会へ影響を与えるという特徴がありますが、それを取り扱うことを生業とする私たちは、社会のニーズに答えるべく、常にその変化に敏感でないといけないと思っています。ただ、会社の中での設計者の役割に大きな変化が求められているとは、私はあまり感じません。社会からのニーズの変化としては、たとえばオフィスをつくる場合は、個人のスペースを広く確保するのではなく、働く人たちが共用して使用できるスペースを広くして働く環境を自由に選択できるようにしたり、街づくりの場合は、街のにぎわいを生み出す器となるような豊かな外部空間をつくるといった、プロジェクトの社会への貢献を高めることがより求められているので、そういった視点をデザインに反映するようにしています。

デザインの領域が広がってきている中で、デザイナーに求められることも多くなってきているのは感じますが、専門性が高い領域なので、サインや照明、ランドスケープなど、各分野のプロフェッショナルと協業した方がより良い建築を生み出すことができるんじゃないかと、個人的には思っています。話し合う中で新しいアイデアが生み出されることや、クライアントからの依頼に対してより良くするための提案を考えたり、そういった議論の積み重ねこそ面白さを感じるので、私が建築の設計者をやっている理由はそこにあるのかもしれないです。

富士通 松井
プロジェクトを通してさまざまなデザイナーさんとお付き合いさせていただく中で思うのは、いま日本が抱えている過疎化や人手不足、高齢化、子育てなど、さまざま課題を解決する上で、デザイナーの方々が果たす役割は大きいんじゃないかということです。デザイナーのみなさんは、ひとつのことを掘り下げた上で、きちんと人間と向き合っているのを感じますし、チームの中にデザイナーがいるだけで変化が生まれるんじゃないかなという予感がしています

 

また、前職のマーケティングの仕事では、なにかしら「答え」があると思って仕事に臨んでいた感覚があったんですが、いま取り組んでいるプロジェクトでは、メンバーの誰もが答えがわからない状態なんです。なので、最近はマネージャーや上司に対してなにかを求めるのではなく、自分自身で責任を持って取り組みたいと思うようになりました。こうやってデザイン業界の方々とお話ししていると、デザイナーのみなさんは答えがない状況に対して、腹積りした上で仕事に臨んでいるのを感じます。私はデザインのバックグランドがあるわけではないので、さまざまな領域の仕事にデザイナーさんが関われるような世界がつくれないだろうかと、そのためになにができるのかを考えています。

デザインを伝えることの難しさに向き合う

-お話を聞いていると、デザインが求められる役割が広範になってきていることで、さまざまな方に向けてデザインの価値を伝えることの必要性が高まってきているのを感じます。みなさんはデザインを言語化することにどのように向き合っていますか?

島津製鉄所 塚本
例えば「A案とB案のどちらがいいですか?」とエンジニアに提案する場面で、うまく伝えないと受け取る側が「何が違うの?」と困ってしまうことがあると思います。デザイナーとしては、多数決や好みで選ばれるのではなく、きちんと意図を持ってジャッジしてほしいので、いかに分かりやすく提示できるのかについて最近は取り組んでいます。

花王 中村
インハウスデザイナーの重要な役割のひとつですよね。デザイナーではない社内の方に説明する力は、やっぱり鍛えなきゃいけないことだと思います。客観的な視点をもち、相手がどのように考えるのかを想定しながら話すためにも、ロジカルになる必要がありますね。

―ロジカルな説明の一方で、造形的な美しさといった感覚的なことを伝えたい場面もありませんか?

花王 松下
それはすごくわかります。「なんとなくいい」と感じてしまう場面も多々あるので。

三菱重工 秋田谷
美しさについて語るためにも、そこにいたるまでの経緯やストーリーを説明する必要があると思っています。美しさというのは、なかなか説明しづらいことではあるので、いかにおもしろいストーリーを語り、共感を生むのか、ということが大事なんじゃないかなと。

竹中工務店 丸子
ストーリーやコンセプトが定まっていないと、本質的な目的を忘れ、かたちの話だけになってしまうので、結果的に好き嫌いで判断されてしまうことはよくあると思います。デザイナーとして美しい/格好いいと内心で思っていたとしても、そういった感覚が通じない相手はたくさんいらっしゃるので、プロジェクトの関係者が同じ方角を向けるように言語化していくことが設計者の重要な役割だと思っています。例えば、メンテナンス性や耐久性といった定量的な言葉に翻訳しながら、「デザインもいいんですよ」といった話し方にアレンジするようにしています。ひとりよがりになってしまうことで伝わらなかったとしたら意味がないですし、デザインと言語化はセットで考えるべきだと思います。

交流会では、日々の情報との接し方やブランドを守るための視点、インハウスデザイナーならではの悩みや葛藤など、同世代だからこそ共有できるさまざまな話題で盛り上がりました。

デザイナーとしての気づきと成長の場として

-最後に、これまでのトピックスの感想や印象的だったことをお聞かせください。

花王 中村
私は「DE&I」についてのレクチャーがとても刺激になりました。私の所属部署は、みんなが美大卒の日本人で、ダイバーシティを意識することがない環境だと思っていたんですが、レクチャーを聞いてからは、「DE&I」というのは人種の多様性だけではなく、日常に存在していることがわかりました。特に「アンコンシャス・バイアス」については、学歴や出身地などで相手に偏見を持っていないだろうかと、自分でも省みるきっかけになりました。それから、自分自身が過去に「あなたはこういう人間だ」と言われたことに囚われてしまっていたことにも気が付きました。

富士通 松井
現在仕事で関わっているプロジェクトでは、10代の学生の方から50代の自治体の方々まで、さまざまなメンバーでチームを組んでいるので、社内のプロジェクトとはまた違った気遣いが必要になってきます。その時に、今回のDE&Iのようなテーマは、コミュニケーションについて考えるきっかけとしてよかったと思います。今年はコロナの影響でハイブリッド開催でしたが、こうやって直接お話しできる機会もいただいたことで、同じ世代の方と会話ができる楽しさを感じることできました。

島津製鉄所 塚本
会社から必要とされるスキルを磨いているだけじゃ駄目だなと気づかされるきっかけになりました。仕事で案件をこなしていくうちに、小手先のスキルみたいなものは伸びてきた感覚がありますが、自分の中のパターンを踏襲するだけで良いデザイナーになったような、そんな錯覚をしてしまっていたと思います。いかに狭い範囲で満足していたのかを気づかされましたね。普段の属性の近い人との会話では生まれないような新鮮な話題もたくさん出ましたし、楽しんで参加させていただきました。

竹中工務店 丸子
旬のテーマを扱ったワークショップに加えて、こういった機会をいただけたことで、同世代と深い話ができるのは大切だなと思いました。デザイナーにはモチベーションが高い方が多く、目の前の仕事をただ単純にやるというより、何か変えたいという気持ちが強いので、同じ想いでデザインに向き合っている方々とお話しができただけでモチベーションが上がりましたし、刺激をもらえました。いつか、ここで出会った方々と、仕事やプロジェクトでご一緒できる機会があるとうれしいなと思っています。

まとめ

6名の若手インハウスデザイナーが集まり、デザインにまつわるさまざまな話題が飛び出したトピックス若手交流会。同世代のデザイナー同士だからこそ話せるテーマに盛り上がりつつ、それぞれが抱える悩みや葛藤について共有する中で、あらためてデザインへの想い語るみなさんの姿がとても印象的でした。

 

今回の交流会を通して感じたのは、デザインについて語り合い、言語化するための場の必要性でした。デザイナーたちが活躍する場面が増えてきているいま、より一層社会の中でデザインの力を発揮するためにも、デザイナー自身がデザインの可能性を伝えていくことが重要になるのではないかと思います。

 

トリニティが主催する異業種交流会「トピックス」は、来年も異なるテーマを掲げて開催予定です。異なる組織で働くデザイナー同士が刺激を与え合い、新たな視点を獲得することができるプログラムづくりに、引き続き取り組んでいきたいと考えています。

クリエイティブ組織の異業種交流勉強会
トピックス

トピックスは、2008年から続く、異業種の企業内クリエイティブ人材が領域横断で集い、つながるためのコミュニティです。時代に合わせ、企業内におけるクリエイティブ組織の価値を高めるために、これからの組織や人材のあり方を共創して考え続けています。

  • クリエイティブ組織運営の課題を解決するための糸口をつか
  • 他のコミュニティにはない、デザイン組織に有用な情報や人脈を手に入れる
  • デザイン組織が、社内で重要な機能を担えるようになる

詳細はこちらから >クリエイティブ組織の異業種交流勉強会「トピックス」14期目スタート

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